半導体レーザ
概要
レーザは「Light Amplification by Stimulated Emission of Radiation」の頭文字で、「放射の誘導放出による光の増幅」という意味になり、レーザ光の発光原理を言葉にしたものです。
自然界にある光は、波が不連続で波長が揃っていないという、かなり乱れた状態で存在しています。
一方、光の波として性質を生かし、波の位相と波長を揃えた人工の光これが「レーザ」です。
レーザ光は、指向性・干渉性・単色性に優れ高いエネルギー密度をもっています。
このため太陽光や電灯の光などの自然光とは異なり、あまりひろがらずに遠くまで直進するという特性を持っています。
特長
小型
低消費電力
高い指向性
集光性が良い
光の直進性が良い
用途
光メディア | CD・DVD・Blu-rayの読み込み/書き込み |
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照明 | レーザー水準器(墨出し器)・ステージライト・ポインター |
ディスプレイ | プロジェクター・レーザーテレビ・スマートグラス・ヘッドアップディスプレイ |
描画・感光 | レーザーダイレクトイメージング・3Dプリンター・レーザープリンター |
加工 | 樹脂、金属材料の切断・溶接・穴あけ・マーキング |
計測・検出 | 距離測定・欠陥検出・レーザー顕微鏡・蛍光検出 |
通信 | 光ファイバー伝送 |
原理
半導体レーザは基本的には発光ダイオードと同じ「PN接合」でできており、活性層(発光層)をN型とP型のクラッド層ではさんだ構造(ダブルヘテロ構造)をしています。
このPN接合のエネルギー準位をポンピングに使って次のようにレーザ光を発光させます。
レーザに順方向電圧をかけるとN型領域から電子-が、 P型領域から正孔+(ホール)が活性層に流入する。
これらの電子とホールは活性領域内で結合し、その際のエネルギーで自然放出光が発生する(レーザ光ではない)。
この自然放出光が次の電子とホールの再結合を促す(誘導放出)。
活性層の端面が反射鏡の役目をするので、光は活性層内を往復し誘導放出と光増幅が行われる。
ここで注入電流をある程度以上大きくすると、レーザ発振がおこりレーザ光が放射される。
構造
シャープ半導体レーザは、独自の「VSIS構造」をとっています。
VSIS構造とは
従来の半導体レーザにV型の溝を作り、電流を流す領域を絞り込むことによって、効率的にレーザ光を取り出します。
従来のN型ガリウム・砒素基板に替えて、電流をブロックする効果が高いP型のガリウム・砒素基板を使用します。
特性について
半導体レーザに流す電流(順電流)と、光出力の関係は右図のようになります。
電流を少しずつ流していくと、レーザは少しずつ光ってきますが、初めのうちはレーザ光ではなく、LEDの光が出てきます。
ところがある所で急に光出力が大きくなり、レーザ発振が開始されます。
このレーザ発振が始まる電流を発振開始電流といいます。
この値を超えた後の電流に対する出力の変化は極めて急激ですが、この電流に対する出力の変化率を微分効率といいます。
半導体レーザは定格以上の光出力で動作させると、短時間に破壊することがあり、出力が出過ぎないように注意する必要があります。
また半導体レーザの特性(特に光出力)は動作温度により大きく変化し、温度が上がると同じ動作電流のままでは光出力がダウンします。
このため、レーザに内蔵されたフォトダイオードの電流(モニタ電流)を検出して出力を一定に保つようにします。
ホログラムレーザ
(1)ホログラムレーザの原理
ホログラムとはガラスなどの表面に細かい溝を多数刻んだ、いわゆる回析格子の一種です。
この溝のパターンにより、その表面にあたった光ビームの進行方向をある角度で曲げたり、レンズ作用を持たせたりすることが出来ます。
(2)ホログラムレーザユニットの構造と動作
このホログラム技術を半導体レーザに応用したものが、ホログラムレーザユニットです。
ホログラムレーザユニットは、まずCDプレーヤ用として考えられましたが、その目的はディスクからの信号読み出し機構の簡単化、小型・軽量化にありました。
原理的には、従来の方式では光の方向を変えるためにプリズムを使っていたのをホログラム素子に置き換えたものですが、これが光学系の大幅な簡素化をもたらしました。
構造的には信号検出用のフォトダイオードがレーザと同一のパッケージにおさまり、この点でも部品点数を削減しています。
ホログラムレーザユニットの動作としては、
- ①レーザーチップから出たレーザ光はホログラムをまっすぐに通過してディスク面に達します。
- ②ディスク面で反射し、信号をもったレーザ光は同じ道を帰ってきます。
- ③レーザ光はホログラムの刻み目によって曲げられ、信号検出用のフォトダイオードに達し、電気信号に変換されて取り出されます。
用語の説明
用語 | 解説 |
---|---|
レーザー発信 | 媒質にエネルギーを供給し、共振器内で光を反射・増幅させて、強いコヒーレント光(レーザー光)を発生させること。 |
可視光 | 電磁波のうち、人の目で見える380~780nmの波長範囲の光こと。波長が短い順に紫・藍・青・緑・黄・橙・赤と呼びます。 |
スペクトル | 分光器を通すことで得られる電磁波の波長毎の強度分布のこと。活性層の化合物半導体材料や設計でスペクトルが異なります。 |
コヒーレント | 光が持つ性質のことで、波同士の干渉しやすさ(位相の揃い具合)を表したもの。レーザー光はコヒーレントな光の代表例です。 |
ビームモード | 半導体LDから出力された光の形状とスペクトルの分布のこと。単一横モードと、多重横モードがあります。 |
単一横モード | ビーム形状が楕円形でスペクトルが中心に集中しているモード。 ビーム品質は良いが低出力です。 シングルモードともいいます。 |
多重横モード | ビーム形状が楕円形または複数の円形であり、波長スペクトルのピークが複数存在しているモード。 マルチモードともいいます。 |
絶対最大定格 | 半導体LDの駆動時に絶対に超えてはならない限界値のこと。瞬時でも超えると半導体LDの破損や著しい性能低下を招きます。 |
光出力 | 半導体LDから取り出される光の量。 出力方式の違いで直流光出力とパルス光出力に分けられます。 |
WPE | 電力変換効率。半導体LDの発光効率を表す指標のこと。ウォールプラグ効率(Wall-plug efficiency)の意味。単位は%。 |
周囲温度 | 半導体LD周囲の大気温度のこと。高温状態が続くと半導体LDに影響が出てくるので、周囲温度を低く保つことが大切です。 |
ケース温度 | CANステムやフレームの温度。仕様書で測定位置を定めています。半導体LDが通電している状態の温度(動作温度)も同義です。 |
ジャンクション温度 | 熱源であるレーザーチップの温度。周囲温度とケース温度を制御して、ジャンクション温度を低く保つことが大切です。 |
熱抵抗 | 放熱性能を評価する指標で熱の伝わりにくさのこと。周囲温度~ケース温度間の熱抵抗が高い、のように使われます。 |
しきい値電流 | 半導体LDが光を放射するために必要な最小電流のこと。しきい値電流を超えると放射される光出力が急激に増加します。 |
動作電流 | 半導体LDが正常に動作するために必要な順方向電流 のこと。光出力との相関をみる「I-Lグラフ」でよく使われます。 |
動作電圧 | 半導体LDが正常に動作するために必要な順方向電圧 のこと。動作電流との相関をみる「I-Vグラフ」でよく使われます。 |
順電流 | 半導体LDの極性にあわせて電圧を印加した際の電流のこと。順方向電流ともいいます。 |
順電圧 | 半導体LDの極性にあわせて印加した電圧のこと。順方向電圧ともいいます。 |
ピーク 発振波長 |
半導体LDが光を発振する際に、最大の発光強度を示すピーク時波長のこと。 |
ビーム 広がり角 |
半導体LDから放射された光について、ピーク強度の半分の幅を表したもの。θ//は水平方向、θ⊥は垂直方向を表します。 |
放射光 軸ずれ位置 |
レーザーチップ位置のx,y,z方向のずれを表したもの。⊿x,⊿yはパッケージ中心からのずれ、⊿zは基準面からのずれ。 |
放射光 軸ずれ角 |
基準面に対する光軸のずれを表したもの。⊿θ//は水平方向、⊿θ⊥は垂直方向を表します。 |
スロープ効率 | レーザー発振領域における、単位駆動電流当たりの光出力の平均増加値のこと。「I-Lグラフ」における傾きに相当します。 |
キンク率 | 動作電流と光出力の相関で、途中で曲がって傾きが変わること。当社は光学設計に影響が少ない範囲で仕様書で定義しています。 |
干渉パターン 強度比 |
レーザー光のコヒーレント性を表すパラメータのこと。干渉縞を形成した際の明瞭度の減衰率で表します。 |