米国コロンビア大学医学部にて実施いただいた検証試験とともに、
試験の意義、今後シャープがプラズマクラスター技術でめざすもの、試験に対する姿勢をご紹介します。
世界保健機関(WHO)が、新型コロナウイルスの感染拡大を「パンデミック」と認定したのが2020年3月。米国においても国家非常事態が宣言され、感染抑制のための要請が次々と発出されていきます。それでも米国の感染者は爆発的に増え続け、病院ではベッドや人工呼吸器が不足。とくにニューヨークでは、セントラルパークに屋外病院を建設しハドソン川に米海軍病院船まで停泊させるなど、すぐそこに医療崩壊の危機が迫っていました。
現場の最前線で治療にあたる医療従事者たちも、常に感染の危難と隣り合わせ。それでも感染患者の命を救うため、日夜、新型コロナウイルスに立ち向かいました。
そんな医療従事者たちの懸命な姿とともに、現場の危機的状況とウイルスの脅威を肌で感じていたのが、ニューヨークに本部を置くコロンビア大学の先生方でした。「感染者と医療従事者を、なんとしてでも守っていきたい」という一心で、ウイルスに効果のある技術について調査。そのなかで着目したのが、多くの実証データを有するプラズマクラスター技術。これが検証試験のきっかけになりました。
ウイルスは生物の細胞の中に侵入して増殖を続ける際、遺伝子のコピーミスを起こすことがあります。この遺伝情報の変化を「変異」、変異したウイルスを「変異株」と呼びます。
ほとんどの変異はウイルス自体の特性に大きな影響を及ぼしませんが、ときに感染力が増したり、重症化リスクが高まったり、ワクチンの効果が弱まったりするなどの変異株が出現することがあります。
なかでも2021年11月に確認された「オミクロン株」と呼ばれる変異株は、ウイルス表面の突起部分(スパイクタンパク質)だけで30か所以上も変異。感染力が高く従来のワクチンも効きにくいという特徴を持っていたため、身体に取り込まれてしまう前の対策が重要視されていました。
今回、コロンビア大学がプラズマクラスター技術で検証したのは、このオミクロン株への効果でした。
前回、長崎大学にご協力いただいた検証試験においては、新型コロナウイルスの実態がまだまだ解明されていない段階。
未知のウイルスを扱うという高いリスクのなか、「人々の命と健やかな日常を守る」という強い信念をもった
安田教授と南保教授によって効果が実証されました。
そして今回は、前回よりも広い空間で、しかも実空間で実現できるイオン濃度25,000個/cm³での検証試験。
安全性を保ちながら広い空間に噴霧するという難しい試験ではあったものの、
実空間でのプラズマクラスター技術の効果実証に向けて大きな一歩となることは間違いありませんでした。
コロンビア大学医学部
(アービング医療センター)
内科学教室 感染症部門
辻 守哉 教授
[医学博士/MD, PhD]
(兼 千葉大学客員教授、
東京慈恵会医科大学客員教授)
コロンビア大学医学部
(アービング医療センター)
呼吸器アレルギーおよび
集中治療医学部門の内科学
森 宗昌 准教授
[医学博士/MD, PhD]
医療、研究、教育を目的とした、世界初の学術医療センター。米国ニューヨークにある私立大学コロンビア大学医学部に所属し、ニューヨーク州で最大の医学研究企業の拠点である。バゲロス医科大学、歯学部、看護学校、公衆衛生大学を含む組織であり、約2,450名(2022年4月現在)の教員および研究員により構成されている。研究分野は、新型コロナウイルス等の感染症、アルツハイマー、臓器移植、臨床試験、腫瘍学、薬学などのさまざまな分野に及んでおり、世界最先端の医学研究が熱心に行われている。
試験の状況(浮遊ウイルス試験)
遠心分離法により高濃度化させた新型コロナウイルス液を102Lの試験ボックス内に噴霧し、プラズマクラスターイオンを照射。その後ボックス内部の浮遊ウイルスを回収。TCID50法※によりウイルスの感染価を算出。
ウイルスの高濃度化
プラズマクラスターの効果試験
試験装置イメージ
■ 回収したウイルスを細胞に接種し数日培養
[試験空間から回収したウイルス液を細胞に接種した場合の細胞の顕微鏡写真]
プラズマクラスターイオンなし
ウイルスの感染により、多くの細胞が死滅し残骸が確認された。
プラズマクラスターイオンあり
ウイルスの感染性が除去され、細胞は正常な状態である。
■ 浮遊新型コロナウイルス試験結果(15分後)
空気中に浮遊する新型コロナウイルス(オミクロンBA.1株)にプラズマクラスターイオンを15分間照射する
ことにより、感染価が99.3%減少することを実証
今回の効果検証試験は、コロンビア大学からシャープのプラズマクラスター技術について問い合わせを受けたことがきっかけでした。協力要請を受けたシャープは、試験装置等を提供。コロンビア大学において独立した試験が行われました。
前回の長崎大学での効果検証試験の経験を礎に、今回「より広い空間」で「より感染力の強い変異株」に対して「実空間で実現できるイオン濃度」をもって効果を実証できたことは、コロンビア大学の多くの研究者たちの貢献によるものです。この成果は、プラズマクラスター技術のさらなる応用への期待を高める結果となりました。
(前回2020年) 長崎大学 |
(今回2022年) コロンビア大学 |
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試験空間 | 3L | 102L |
対象株 | 従来株 | オミクロン株 |
イオン濃度 | 1,000万個/cm³ | 25,000個/cm³ |
シャープは2000年より、プラズマクラスター技術の効果を国内外の第三者試験機関で実証するアカデミックマーケティング※1を推進しています。今回の検証を含めこれまで海外の13試験機関で、「浮遊するセラチア菌(院内感染菌)」や「浮遊するインフルエンザウイルス」などの作用抑制効果の検証、「結核病院での結核感染リスク低減効果」などの臨床効果検証、さらには「ウイルス・カビ・細菌の作用抑制メカニズム」の解明などに取り組んできました。あわせて、プラズマクラスター技術の安全性についても検証※2を重ねています。
これからもシャープは、プラズマクラスター技術の有効性について国内外で積極的に実証を続け、世界の健やかな環境と未来づくりに貢献してまいります。
ワクチン接種以外の防御対策のひとつとして
プラズマクラスター技術に大いなる期待
【効果検証試験を終えての総括】
新型コロナウイルスは、2020年以降世界で爆発的に感染が拡大しました。現在も我々の免疫反応を回避しつつ変異を繰り返し、社会への脅威となっています。感染対策としては、ワクチン接種以外にも多面的な防御対策を実施することが望ましいと考えています。
今回、感染力の高いオミクロン株での浮遊試験を行う上では、十分に安全性を確保し実施する必要がありました。そのような状況下、ウイルスの漏れない安全キャビネット内に収容できる最大サイズの試験ボックスにおいて、確実な試験を実施することができました。結果、プラズマクラスターイオンによる浮遊する新型コロナウイルス(オミクロン株)への顕著な減少効果が確認されました。今後、プラズマクラスター技術を使ったウイルスのエアロゾル感染対策としての応用が大いに期待できます。
コロンビア大学 アービング医療センター
感染症内科学 辻 守哉 教授