2025年度グッドデザイン賞に選ばれた、ヘルシオ トースターAX-WT1。
製品のプロダクトデザインを担当した大野に、
デザイン開発の裏側や製品に込めた思いを聞きました。
designer introduction
シャープ株式会社
Smart Appliances & Solutions事業本部
デザインスタジオ
大野 和樹デザイナー
富山県生まれ、大阪府育ち。愛知県立芸術大学デザイン専攻卒業。ヘルシオ トースターの新規デザインを担当。趣味はカセットテープレコーダーで遊ぶこと。好きな食べ物は、窯焼きピザ、納豆、ビール。
interview
01
目指したのは
「キッチンの相棒」
ヘルシオ トースターのデザインは、どのような背景から生まれたのですか?
トースターを新たに構想する初期段階でデザイナーとしてプロジェクトに参加し、一から製品開発に関わりました。食べる人の好みにあわせた理想の食感が実現できる新機能「おいしさ食感マイスター」を搭載したトースターを開発することになったのですが、これは商品企画チームが実施したパンにまつわるアンケートが発端でした。トーストの食感について、小さな子どもは固いと食べにくかったり、お年寄りは柔らかいものが食べやすくて好きだったり…。人ぞれぞれ好みが違うという結果だったんです。
人ぞれぞれの好みに寄り添うコンセプトのトースターになることを念頭に、デザイン面でも大人から子どもまで幅広い世代に受け入れられる製品にしたいと考えました。毎日のように食べるパンを好みの食感に焼き上げてくれる…
そんな日常に寄り添うトースターなので「親しみやすい存在」をデザインのコンセプトにしました。
人ぞれぞれの好みに寄り添うコンセプトのトースターになることを念頭に、デザイン面でも大人から子どもまで幅広い世代に受け入れられる製品にしたいと考えました。毎日のように食べるパンを好みの食感に焼き上げてくれる…
そんな日常に寄り添うトースターなので「親しみやすい存在」をデザインのコンセプトにしました。
「親しみやすい存在」になるために、どのような意識でデザインしましたか?
ヘルシオ トースターをデザインするにあって、そもそも「トースター」がどういう性質の道具なのかを考察しました。高機能なオーブンレンジ等と比較すると、トースターは、機能が限られていながらもシンプルな使い勝手で、使い回しの良い点が魅力なんだと考えました。さらに、自分にとってトースターがどんな存在であったかを振り返ってみると、小学校低学年の頃にチーズトーストを頻繁に焼いて食べていたことを思い出したりもして…。僕はチーズをカリカリに焼くのが好きで、ちょうどいい焼け具合になるタイミングを見計らうためにトースターの窓をジーッとのぞき込んでいたんですよね(笑) ワクワクしながら焼けるのを待って、上手にできると嬉しかった記憶があります。
構想段階時のスケッチ
トースターを通して自分好みに作る楽しさや食べて味わう喜びを知ったような気がして、それが今回の「好みの食感に焼き上げられる」という機能とリンクすると感じました。そうした自分の体験から、大人も子どもも、むずかしいことを考えず、好奇心のまま、自分の理想の食感を探求させてくれる「キッチンの相棒」のようなトースターデザインを目指しました。
interview
02
焼き上がりまでの
期待感を演出する窓
窓のデザインは、丸みを帯びた独特な形状ですね。
「キッチンの相棒」になるためには、使う人にとって頼もしい存在であってほしくて。その印象を出すために、トラック楕円の窓を大きくレイアウトすることにしました。この形状は「この中ですごいことが起こっているぞ!」というパワフルさを表現した記号なんです。例えば、潜水艦や飛行機の窓って正円や楕円だったりしませんか。圧力のかかる環境では四角の窓だと力が角に集中して壊れやすいという特性があるため、円形の窓が採用されているんです。このトースターは100℃を超える大量の過熱水蒸気を庫内に充満させ、気密性の高いドアで密閉してパンを焼き上げます。共通する要素があると考え、トラック楕円を採用しました。この窓をひと目見て「パワフルに焼き上げてくれそうなトースターだな」と感じてもらうことを狙いとしています。
また、僕自身の原体験から、窓をのぞき込んで焼き上げる過程をワクワクしながら楽しんでほしいという思いがありました。なので、ついついのぞき込みたくなる隠し味として窓フレームのタテヨコ比を9:20に設計しています。これはスマホ画面で主流になっている比率なんです。「人々がつい見てしまう、よく目にするものって何だろう」と考えていく中で、みなさんが一番見慣れている比率として、今回の窓比率に落とし込みました。
また、僕自身の原体験から、窓をのぞき込んで焼き上げる過程をワクワクしながら楽しんでほしいという思いがありました。なので、ついついのぞき込みたくなる隠し味として窓フレームのタテヨコ比を9:20に設計しています。これはスマホ画面で主流になっている比率なんです。「人々がつい見てしまう、よく目にするものって何だろう」と考えていく中で、みなさんが一番見慣れている比率として、今回の窓比率に落とし込みました。
窓についてだけお話すると、頼もしく強そうなイメージを持たれるかもしれませんが、あくまでデザインコンセプトは「親しみやすさ」です。そこで、製品正面のサイズ比には親しみを感じると言われる白銀比(1:1.4)を採用しました。これはキャラクターデザインにも用いられる愛着を感じやすい比率とされています。
また、脚をハの字にしているのもポイント。真っ直ぐな足だとクールな印象になりますが、こうすることで、脚を踏ん張ってパンを焼いてくれている生き物のような、温かみある佇まいになります。「相棒」という世界観を表現するために、この脚の形状はこだわりました。
そうした製品全体の愛らしさと窓の頼もしさ、これらをバランスよくまとめた佇まいになったと思います。
また、脚をハの字にしているのもポイント。真っ直ぐな足だとクールな印象になりますが、こうすることで、脚を踏ん張ってパンを焼いてくれている生き物のような、温かみある佇まいになります。「相棒」という世界観を表現するために、この脚の形状はこだわりました。
そうした製品全体の愛らしさと窓の頼もしさ、これらをバランスよくまとめた佇まいになったと思います。
焼き上がりの瞬間を思わずのぞき込んでしまいたくなりますね。
実は、庫内をのぞき込みやすくするためにドアに6°の傾斜をつけているんです。この傾斜によって製品と人が向き合った時に目線が合うような感覚になって、より親しみを覚える効果も狙っています。
使う人の食べたい食感に焼いてくれるという機能は、人に向き合って寄り添う精神性を感じるので、それをこの傾斜によって物理的にも表現できたと思います。デザインしている最中はドアと言うより「顔」と思って日々試行錯誤していましたね。
使う人の食べたい食感に焼いてくれるという機能は、人に向き合って寄り添う精神性を感じるので、それをこの傾斜によって物理的にも表現できたと思います。デザインしている最中はドアと言うより「顔」と思って日々試行錯誤していましたね。
また、窓の周囲には彫り込みがあるんですが、スプーンカット形状の曲面になっていて、奥行きが感じられる陰影を演出します。ドアにはある程度の厚みを出してパワー・頼もしさを感じさせるために、彫りの深い窓も検討したのですが、それだと窓がドアの奥に沈み込み、のぞき込みにくくなることが分かりました。ドアの厚み感と窓の視認性、この相反する課題を両立するために、ドアフレーム形状の検討には特に時間をかけました。
interview
03
調理道具らしさと、
食感を選ぶ楽しさ
製品の表面のザラザラとした質感も印象的ですね。
「いくつもの試作パーツを作り、デザインの検証を重ねた」と語る大野
トースターはキッチン空間に置くものですし、今回の製品はシンプルな機能とは言え、トースターの中では高機能な部類に入ります。それゆえに信頼感や品位が感じられることも重要なポイントでした。
そこから、長く使えるしっかりした調理道具の雰囲気が必要…という考えに至り、鋳物のような質感が感じられる仕上げを採用することにしました。
質感の他にも形状の工夫として、触った時に鋳物らしさを感じるよう、ドア上部の取手を少し窪ませています。これはスキレットなど鋳物の調理器具を見て研究しましたね。持った時に感じるあの重みや厚みの雰囲気をデザインに反映できたと思います。
そこから、長く使えるしっかりした調理道具の雰囲気が必要…という考えに至り、鋳物のような質感が感じられる仕上げを採用することにしました。
質感の他にも形状の工夫として、触った時に鋳物らしさを感じるよう、ドア上部の取手を少し窪ませています。これはスキレットなど鋳物の調理器具を見て研究しましたね。持った時に感じるあの重みや厚みの雰囲気をデザインに反映できたと思います。
操作ダイヤルやアイコン表示にもこだわりがあると聞きました。
ワクワク感や好奇心をかき立てる使い心地を目指しました。このトースターの最大の特長は、ふわふわ度を3段階、焼き加減を5段階、掛け合わせて全15通りの焼き加減が選べること。当初はこの設定を「ふわふわ度3」「焼き加減1」と数字で表示する案があったんです。でも試作してみると、数字の食感表記は今回のトースターに採用するには無機質なものに感じて…。コンロのつまみで火の大きさを目で見ながら調整するように、難しいことは考えず、直感的に食感の操作ができるようなアイコン表現にこだわりました。ふわふわ度は水を使うので水滴の数で表現し、焼き加減はダイヤルを回すのと連動して扇状に変化していく。そうすることで、今まさに自分の手で食感を決めているという臨場感が得られるんです。自分の操作が見て分かるから、小さなお子さまでも触りながら設定が理解できるのも良い点です。
また、モード選択のパンのアイコンなんかも一目で分かるイラストにすることで簡単さやワクワク感を出すことに一役買っています。パンが焼き上がるまでのカウントダウンを表示する数字フォントは、離れた場所からも読みやすい太さと、親しみやすい世界観にマッチする丸みのあるフォントに仕上げています。「あと何分で焼き上がる…!」と残り時間を見てワクワクするイメージもって検討していました。
ヘルシオ トースター、どのような方に届いてほしいですか?
今回のトースターの最大の魅力は食感を変えられること…これはすなわちパンを好みに合わせて自由に楽しめることなんです。メーカーが一番良いとするおいしさを一つに決めて提案するのではなく、人ぞれぞれにおいしいと感じる幅があって、それに寄り添って応えられるという大元の開発コンセプト、これは本当に素敵なことだと思っています。
そんな“自由なトースター”だからこそ、老若男女を問わず自分の好きな味わいを求めて、このトースターと共にパンを自由に楽しんでいただけたら、担当デザイナーとしてもすごく嬉しいです。
そんな“自由なトースター”だからこそ、老若男女を問わず自分の好きな味わいを求めて、このトースターと共にパンを自由に楽しんでいただけたら、担当デザイナーとしてもすごく嬉しいです。
グッドデザイン賞の受賞と、これからのデザインへの気持ちを教えてください。
シャープは独自の技術で生活者に寄り添うという姿勢を大切にしていますが、ヘルシオ トースターは、まさにそれを体現した商品だと思っています。
企画・技術メンバーと一緒に試行錯誤を重ね、デザイナーとして関われたことがとても楽しくやりがいのある時間でした。最終的に学生の頃から憧れていたグッドデザイン賞をいただき、とても光栄に思っています。受賞の結果を知った時、このシャープらしさが詰まった商品の魅力をデザインに昇華することができたんだなと安堵しました。今回の受賞を糧に、これからも使う人が「料理をする楽しさ・食べる嬉しさ」を実感できるようなキッチン商品のデザインを行っていきたいと思います。
企画・技術メンバーと一緒に試行錯誤を重ね、デザイナーとして関われたことがとても楽しくやりがいのある時間でした。最終的に学生の頃から憧れていたグッドデザイン賞をいただき、とても光栄に思っています。受賞の結果を知った時、このシャープらしさが詰まった商品の魅力をデザインに昇華することができたんだなと安堵しました。今回の受賞を糧に、これからも使う人が「料理をする楽しさ・食べる嬉しさ」を実感できるようなキッチン商品のデザインを行っていきたいと思います。