第1回
メビウスの新コンセプトについて
第2回
PC-MT1/PC-SX1デビューまでの道のり
第3回 PC-MT1/PC-SX1を生んだテクノロジー(1)
第4回
PC-MT1/PC-SX1を生んだテクノロジー(2)
第5回
これまでのメビウス・これからのメビウス
一度お店で手にとって金属筐体の質感を味わって見てください。
ひと目でメビウスだと分り、自分自身が本当に欲しい個性的なモバイルPCを今後も追求し続けたいと思います。
まさにモバイルのためのパソコンとして、十分にご満足頂ける製品に仕上がっていると思いますので、お手に取ってご確認ください。
モバイルへの想い入れと苦労の結果を喜んで頂けると嬉しいです。
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まず世界最薄・最軽量を実現したPC-MT1に隠された構造上の秘密を教えてください。
古田
大きくは4つあります。1つ目は
『キャビネット一体薄型表示ユニット』
といって従来、液晶ディスプレイを支えていたフレームをなくし、金属製の表示マスクやカバーで代用させたシャープ独自の設計です。もう少し詳しく言うと、液晶の標準的な構造はガラス層、導光板、それを保持するためのプラスチック製のPシャーシ、さらにそれらを最終的に額縁のように押さえるベゼルという金属フレームで構成されているのですが、このうちベゼルを取り去り、表示用のカバーで兼用させることで薄さを出しました。この新開発の液晶ユニットは業界最薄で、PC-MT1専用としてTFT液晶事業本部の開発部へ入れてもらって私が1からおこしたものです。
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前回うかがった「三重の液晶工場に約4ヶ月間こもり、専用ユニットを開発した・・・・」というお話は古田さんのことですか?
古田
そうです。なにせ表示ユニットの厚さの目標値が5ミリでしたから、ユニット内部のガラス、導光板、CCFT管、フィルムなど各構成要素ごとに、それこそミクロン単位でギリギリまでつめる必要がありました。しかも不幸なことに、当時液晶のドライバーのICなどデバイスの大半が携帯電話用にとられていて、液晶を作ろうにもなかなかパソコン用に回ってこないという状況だったんです。液晶の開発と合わせて部品調達も含めた全体の日程調整にもかなり骨を折りました。また開発スケジュールや投資効率を考えると薄さを追求する一方で、ドライバーやガラスのセルなどパーツすべてを新規で設計している余裕はなかったものですから、液晶工場のエキスパートたちが培った知恵と技術のマッチする部分を選りすぐり、それらをまとめ上げて最終的にPC-MT1用の液晶ユニットに仕上げました。
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薄さに本当に驚きましたが、堅牢性はどうですか?他にどんな秘密があるのですか?
古田
2つ目は
『4面金属ボディ』
です。表示カバーにはマグネシウム合金を、表示マスク・本体上下キャビネットにはアルミ合金と4面すべてに金属を採用しています。この設計により、モバイルでの使用を考慮した超薄型のデザインと堅牢性を確保できました。
3つ目は本体の設計に採用している
『ボックスラーメン構造』
です。ラーメン(Rahmen)とはドイツ語で「梁」という意味で、ラーメン構造と言えば超高層ビル建築の主体構造として知られる建築技法です。この構造にヒントを得て開発したのが今回の『ボックスラーメン構造』で、従来にはないマグネシウムフレームを配した「両面挟み込み方式」で強度を大幅にアップさせた技術です。本体の設計として一般的に用いられているのは、底パネルの上に基板を乗せて、基板の上にさらにキーボードが乗り、これらすべてが一体構造になっている「積み上げ方式」です。ただこの方法だと、メカ的なストレスをかけられない電子部品を搭載した基板の上にキーボードが乗る形になるので、キーボード自身に剛性がないとキーの真ん中がポコっとへこんでしまうという問題がありました。一方、『ボックスラーメン構造』ではプリント基板やハードディスク、スピーカーなどすべての部品をいったんマグネシウム製フレームに組み込んで、構造物になった状態のものの上にキーボードが乗り、さらにキーボードの上とフレームの下の両側からアルミのパネルで挟み込んでいるので先の問題を解決できます。この構造によってキーボード自身の剛性も上がり、セットとしての全体的な剛性も上がる点がポイントです。この技術はポータブルMDプレイヤーに使われていたものですが、今回初めてノートパソコンに応用しました。『ボックスラーメン構造』も超薄型デザインと強度の確保の両立に大きく貢献したキーテクノロジーです。
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今回、メカニカル的にもチューンアップを行ったということですか?
古田
確かにノートパソコンの世界は、回路やソフトウェア系のテクノロジーは日進月歩といっても過言ではないほどものすごいスピードで進化しているのですが、機構系は割と従来の技術を使ってスタンダードなものを作るというのが一般的な手法です。ただ今回、極限まで薄くするにはどうしたらいいかということをワーキンググループで再三検討を行った際に、たどり着いた結論はやはり機構系も含めて従来の方法では薄さに限界があるということでした。
そこで定石や既存の手法に捕らわれるのをやめて、新しい視点と発想で、新しい技術を身に付けていこうという体制に切り替えました。おかげで私の仕事の行動範囲もかなり拡がりました。ベンダーさんとのやりとり1つをとっても、従来でしたら近畿圏内で仕事は完結していたのですが、今回は東京から九州まで日本全国に点在する新規のベンダーさんにも積極的にアプローチしました。MT1の本体上下キャビネットに用いたアルミ合金のパネルは、板厚0.6ミリで従来のマグネシウム成型品(約1ミリ)に比べて約0.4ミリ薄くすることができたのですが、これもそのフットワークで稼いだ成果の1つです。また
『ボックスラーメン構造』の模式図
からもわかるように、表裏至る所がへこんでいるMT1の部品に合わせて、3次元設計も今回初めて本格的に取り入れました。
松村
回路設計に関して言えば、基板の面積を小さくするために今回は部品点数を減らすことに注力しました。他にも高さの低い部品を積極的に採用しました。尚、高さの低い部品はその分面積が大きく、基板面積と高さのトレードオフ関係になり、基板実装(部品選定・レイアウト)が非常に難しかったです。
井上
ソフトウェア設計に関して言えば、ハードウェアにおける部品点数の削減を実現するために、従来2つに分かれていたファームウェアを1 つにまとめる取り組みを行いました。これは、全く別の2つのプログラムを融合させるというもので、仕様設計からプログラミングまですべて社内で開発しました。
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最後の4つ目の秘密は何ですか?
古田
本体上下キャビネットに施した
『特殊染色処理』
です。これは技術的な秘密というよりはデザイナーのこだわりなのですが、アルマイトの特殊染色処理を採用しています。そもそもアルマイトは日本が開発した日本固有の技術なのですが、表面硬度(モース硬度)が9で、ダイアモンドにつぐルビーと同等の硬度があり非常に硬いんです。従来の着色塗装では塗装の剥げがよく問題になるのですが、この場合金属素材そのものにアルマイト染色処理を施しているので、耐久性に優れ剥離や脱落の心配がありません。あとは何と言ってもこの金属の質感でしょう。コスト的には通常の塗装の1.5倍くらいかかってしまうにも関わらずこの処理方法を決断させたのは、塗装では絶対出せないこの圧倒的な金属の素材感だと言えるでしょうね。
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まずPC-SX1について伺いますが、“モバイルコンシャス”というコンセプトが具体的に現れているのはどの部分になりますか?
山本
見ての通り
B5サイズ・1.43kgのコンパクトでかつ、クラッチバッグ感覚の堅牢なボディー
に仕上がりましたので、十分“小さく運んで”お使いいただけると思います。“色々使える”に関しては、
『超低消費電力CPUであるトランスメタ社のCrusoeを搭載』
し、標準約5時間、最大約10時間というかつてないロングバッテリーライフを実現した点が最も大きなポイントで、それをベースに単に出先で報告書のタイピングやプレゼンをするだけでなく
『SDカード/スマートメディアカードスロット』
の初めての搭載で、ザウルスやデジタルカメラ、インターネットビューカム等他の情報機器との連携を広げ、拡張性にも配慮しました。
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SDカード/スマートメディアカードスロットを初めて搭載するにあたり苦労はありましたか?
山本
両スロット共に初搭載ということで、規格を調べたり、システム上でどのように設計に組み込んでいくかという試行錯誤はもちろんありました。特にSDカードは、時期的にまだ規格ができつつある段階でしたので、動くものをただ持ってきて乗せるというわけにはいかず、苦労しました。インタフェースのチップ製作等も含めてすべてが同時進行だったので、日程をいかによむかというのもポイントでした。SDの開発担当者は社内外を問わずSDカードに携わっている関係者の方々にかなりしつこく聞きまくりました。お陰で新しい勉強がたくさんできました。
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PC-SX1の放熱対策はどのようにとられていますか?
山本
今回、PC-SX1ではファンレス設計を採用しました。ファンは電力とスペースを食う上に家やオフィスで使っていると音がけっこううるさい代物です。ただSX1クラスの小さい筐体では、限られた容積内でいかに効率良く放熱するかというのは割とシビアな問題でして、電池寿命を持たそうというSX1のコンセプトとのはざまで、ファンをつける・つけないに関して事業部内でも意見が割れました。最終的にはチーフが半ば強引に「ファンなしでいく」と押し切ったのですが、それでもし商品自体が発売できなくなったら全く意味がないわけですから、究極の選択であり賭けでもありました。が結果的にはファンなしで、しかも機構的には放熱するための金属ユニットを追加した程度で放熱の問題をクリアできました。キャビネットやキーボード等部分的に内部の発熱を分散させてファンの助けを借りずに実現した省エネ型の放熱システムです。
次回、
第四回
に続く
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