プロダクトイメージ

Plasmacluster air purifier
FU-90KK

Designed by Kengo Kuma & Associates

Project
Story

The Beginning of the Project

はじまりは、
空気の質を向上させたい
という想い。

シャープと隈研吾建築都市設計事務所(以下、KKAA)とのコラボレーションから生まれた、これまでにない空気清浄機。プロジェクトのはじまりは、空気に対する世の中の意識ががらりと変わったコロナ禍のことでした。
「以前よりも空気の質みたいなものにすごく敏感になり、空気によって人間の生命というものはすごく左右されているということを、改めて感じていた」と語る隈研吾さん。
KKAAのオフィスに空気清浄機を置くことを決めました。
隈研吾建築都市設計事務所(KKAA) 建築家 隈研吾さん

隈研吾建築都市設計事務所(KKAA) 
建築家 隈研吾さん

KKAAの平田潤一郎さんは、「数あるメーカーの中で、どの空気清浄機がよいか検討し、シャープさんの機器を導入したのがきっかけ」と振り返ります。
「詳しくお話を聞く中で、オフィスの図面から設置シミュレーションができるなど、空間環境をしっかりと考えていると感じました。シャープさんとなら、私たち建築事務所と一緒に面白いものを生み出せるのではないかと」
隈研吾建築都市設計事務所(KKAA) デベロップメントディレクター 平田潤一郎さん

隈研吾建築都市設計事務所(KKAA) 
デベロップメントディレクター 平田潤一郎さん

自然の力を応用したプラズマクラスターの
原理に共感。

その際、実演によってプラズマクラスター技術を体感。シャープの技術を「命と繋がっているテクノロジーだと感じた」と語る隈研吾さん。プラズマクラスターのプラスイオンとマイナスイオンを同時に出して空気を浄化するという「自然に限りなく近い」原理が、隈研吾さんが建築で目指す考え方に通じると感じたそうです。こうして、KKAAによるデザインとシャープの技術を融合させる、新しい空気清浄機の開発がスタートしました。
自然あふれる山中を流れる滝
Concept Design

建築空間と調和する、
家具のような空気清浄機。

KKAAチームが目指したのは、「家具」のように空間と協調する見た目であること。建築物の完成後には、さまざまな道具や機器が空間内に置かれます。
「そういう道具までを含めた全体の空間を考える時、自分たちのデザインした“空間の質”と合わないプロダクトを選ばざるを得ない状況があった」と話す隈研吾さん。空気清浄機などが置かれると、その素材感や形状から空間の中で異質な存在となることも少なくありません。家具のような見た目で、空間に違和感なく溶け込むプロダクト。そうした建築家の視点から、ベースモデルとなる機種をもとに外装デザインが練られました。
建築家 隈研吾さんインタビューの様子

建築で重要な部分に使う
簾虫籠(すむしこ)のデザインを採用。

KKAAのプロダクトを多く手がけてきたパートナーの宮澤一彦さんは、「空気清浄機は空間内に空気の流れを作るために、上部に吹出口、側面に吸込口がある。その空気清浄機の雛形とも言える形状から、シャープ側から提案されたベースモデルであれば脱却できると考えました」と説明します。
隈研吾建築都市設計事務所(KKAA) 建築家 宮澤一彦さん

隈研吾建築都市設計事務所(KKAA) 
建築家 宮澤一彦さん

側面には、その隙間から自然と風が吹き出てくる様な印象を与える縦格子を採用。日本の伝統的な建具である簾虫籠(すむしこ)をベースにデザインしました。「光を透過する障子、風を透過する簾虫籠」。KKAAでは空間を構成する壁面の透過度をコントロールし、それを重ねて全体を作り上げていきます。
簾虫籠を意匠に用いた「Také Japanese Restaurant」

©Kengo Kuma & Associates

簾虫籠を意匠に用いた「Také Japanese Restaurant」

一見すると均等に並んでいる格子は、細かな角度が付いたパターン。同じくKKAAの平沢未来さんは、「単に平行に並べただけだと、斜めから見た際にそれぞれの面が強調されすぎるため、色々な角度から見た際の全体的な納まり感を重視して角度を調整しました」といいます。
家具のように壁から離れた位置に置くことも想定。全ての面が同じ見え方であることで設置の自由度が高まっています。
隈研吾建築都市設計事務所(KKAA) インテリアデザイナー 平沢未来さん

隈研吾建築都市設計事務所(KKAA) 
インテリアデザイナー 平沢未来さん

本物の木材を使った
空気清浄機が作れるだろうか。

素材として選んだのは本物の木材。「家具のような空気清浄機」を実現するために木材を使いたい一方で、「本当に木でできるのか、という気持ちもあった」とKKAAのメンバーは口を揃えます。量産性やコスト面から、家電全般で樹脂(プラスチック)が使われることが一般的です。
木材を使うことには別の背景もあります。KKAAでは基本的に、木材に限らず「地産地消」の考え方で材料を選んでいるといいます。
「地産地消という意味でその土地の木材を使うことが多いのですが、建築の場合は大きな木材を使った後に使い道のない端材が出てしまう。そうした端材の活用にも取り組み始めているところです」と宮澤さん。
「建築以外のアウトプット先が生まれて、木材の活用範囲が広がっていく期待もあります」
切断された木材イメージ

難しいけれど、実現したい。

KKAAさんの提案を受け、シャープでプロダクトデザインを担当する奈良俊佑さんは、「これまで木材を多く使った例がなく、社内に知見がなかった」と話します。「非常に難しいとはわかっていたけれど、実現させたいと思った」という奈良さん。
「インハウスデザイナーとしては、本物の木材やファブリックを使いたくても、生産面で課題が多いのが現状。どうしても樹脂に木目調のシートを被せるといった方法になり、ジレンマを感じていました」
知見がない中でデザインを形にするには、「協力先を探すのが大きな課題だった」といいます。
「木材の色一つとっても、木材加工をお願いした岡﨑木工さんや、塗装に詳しいモデル製作業者にも協力を仰ぎ、塗料の調合や吹き付け方を繰り返しトライしました。本当に社内外の色々な方々を巻き込んで協力いただきました」
SAS事業本部デザインスタジオ デザインマネージャー 奈良俊佑さん

SAS事業本部デザインスタジオ 
デザインマネージャー 奈良俊佑さん

シャープにとっては、フォルム自体もこれまでにないアイデアのものでした。
「昔は売り場で目立つかという議論があったほど、デザインがインテリアと切り離されていました。現在はインテリアとのバランスを考えていますが、ここまで360°どこから見ても空間に溶け込むデザインはKKAAさんならでは。ブランドロゴを表に出さないのも初めてのことで、空間を意識する大切さを再認識しました」
空間に溶け込むインテリア
The art of woodwork

薄く削るほど、
木が反ってしまう。

外装の製作を担う岡﨑木材工業株式会社(以下、岡﨑木工)は、山口県にある老舗木材加工・施工会社。過去にもKKAAとの協業で数々の建築物や家具、建具などを製作している同社にとって、今回のプロダクトには多くの壁があったそうです。
製作チームを統括している有馬秀高さんは、「家具などに比べて、木材の薄さや細かさが違う。木の特性上、削って薄くなるほど反りやすくなってしまうんです」と説明します。
岡﨑木材工業株式会社 木工職人 有馬秀高さん

岡﨑木材工業株式会社 
木工職人 有馬秀高さん

特に試行錯誤を重ねたのは、プロダクト上部の天板。
「当初は一枚の無垢で作れないかというリクエストがありましたが、3ミリほどの薄さでは、どうしても反りが出てしまう。そこで、木材を0.6ミリの非常に薄い状態に加工し、それを6枚重ねることで反りを防いでいます」
木目の向きは90°方向にずらして押さえることで、一枚板のような張りが生まれます。さまざまな重ね方のバランスを調整し、この方法に辿り着きました。
細い縦格子はプレス機を使えないため、100分の1ミリ単位でサイズを管理しながら、熟練の職人たちが木材同士の凹凸と糊のみで接着しています。
熟練の職人による加工の様子

空気清浄機に求められる
強度不足が課題だった。

空気清浄機であるがゆえに生じる、強度の課題もありました。
「シャープさんで品質試験をされて強度が足りていないと。家具なんかでは基本的に強度不足といったことはないので、大きな違いでした」
強度をクリアするために、木材同士が強くかみ合うよう調整したり、糊の種類や付ける面積を変えるといった工夫が必要だったそうです。
木工職人 有馬秀高さんインタビューの様子

木製品をいかに安定させ、
量産するか。

岡﨑玄二郎社長は、プロジェクトが進むにつれて「数千枚単位で動きのある木材をいかに安定させ、工業製品に近づけるか、木製品の量産の難しさを実感しました」と話します。
今回のような生産規模は例がないため、通常よりも工程を分け、多くの人数が製作に携わっているとのこと。
岡﨑木材工業株式会社 代表取締役社長 岡﨑玄二郎さん

岡﨑木材工業株式会社 
代表取締役社長 岡﨑玄二郎さん

当初はKKAAが求めるデザイン性、シャープが求める製品の品質をどこまで実現できるか、不安もあったといいます。しかし、KKAAの建築やプロダクトは「木工業界に大きな影響を与え、どこまでも木材の可能性を知ることのできる仕事」という岡﨑社長。
「木材を家電に使うことは常識を覆すチャレンジ。このプロダクトが、日本だけでなく世界でも愛されてほしいと願っています」
Optimize air purification capacity

上部が塞がれた形状で、
どのように気流を作るか。

プロダクトの性能を左右するシャープの技術開発部門。特別なデザインと空気清浄機としての性能、両方を叶えるには、メーカーとしてクリアしなればならないさまざまな条件がありました。構造設計を担当した山口晃広さんは、KKAAのデザイン案を見て「天面に吹出口がないことに驚きました」と最初の印象を語ります。
「ベースモデルは天面に吹出口があるタイプ。天板が設置された形状でどのように風を出すか、単に横から風を出すだけでは、周囲の人にとって不快になってしまいます。トライアンドエラーを繰り返して気流を解析し、性能を維持しながら斜め上の4方向に風が流れるように調整していきました」
プラズマクラスター・ヘルスケア事業部 PCI第一技術部 山口晃広さん

プラズマクラスター・ヘルスケア事業部 
PCI第一技術部 山口晃広さん

プロダクトの気流解析実験の様子

製品の安全性を
担保しなければならない。

同じく技術担当の濱野拓巳さんは、「空気清浄機としてどこまで木材を使用できるのか、前例がないため法律上の調査も必要だった」といいます。
家電には、使用上の事故等を防止するための電気用品安全法が定められています。製品が安全法を遵守しているか、使用上の危険がないかを確認する品質試験を、技術・品質部門で行っています。試作ができる度に、温度60℃~-20℃の高温・低温環境下に繰り返し置くヒートサイクル試験や、湿度90%の環境下に置く恒温・恒湿試験、また転倒試験も実施。試験結果をもとに岡﨑木工やKKAAと調整を重ねていきました。
プラズマクラスター・ヘルスケア事業部 PCI第一技術部 濱野拓巳さん

プラズマクラスター・ヘルスケア事業部 
PCI第一技術部 濱野拓巳さん

空間との調和を意識した。

デザインコンセプトから、ホテルや美術館といった落ち着いたパブリック空間に置かれることを想定し運転音も重視。最大8.7㎥/分の大風量でも50dBの運転音に抑え、性能面でも空間との調和を意識しています。
当初は周りから「商品化は難しいのでは」という声も多く、「チャレンジングな要素が詰まったプロジェクトだった」と話す山口さんと濱野さん。
「懸念はあっても一つ一つの課題をクリアして形にできた。こうした挑戦をもっと増やしていきたい」と今後の期待も生まれています。
プロダクトの静音性検証の様子
The art of woodwork

家電の新しい価値を
生み出していきたい。

KKAA、岡﨑木材工業、シャープのデザイン、技術を結集して実現した今回のプロダクト。
シャープは空気清浄機のリーディングメーカーという自負があり性能面の妥協はしない。そうした中でKKAAさんのデザイン意図を捉えて製品化していくのは非常にチャレンジングでした。家電×木材を融合させたこのプロダクトが、シャープのモノづくりの考え方に間違いなく影響を与えています。本物の質感や木目の個体差、経年による味わいは、これまでの家電にはなかった価値です。
愛着を持って長く使えることは環境の視点からも大切。今回のような取り組みは、現代に求められている重要なことのひとつではないでしょうか。家電の新しい価値を生み出していくことが、今後のメーカーとしての役割だと思います。