「プロゲーマーの1日」として実施した取材でしたが、あまりにもインタビューが盛り上がってしまい、急遽、企画内容を変更してお届けします。

伝説のプロ格闘ゲーマー、板橋ザンギエフ選手(DetonatioN Gaming所属)

  • ・楽しむことを忘れ、破綻した選手を何人も見てきた
  • ・格闘ゲームの良さはeスポーツ化で失われた?

eスポーツの歴史の生き証人ともいえる板ザン選手と、今のeスポーツ、これからのeスポーツについて徹底議論しました。本音爆発のインタビュー、その全てを余すことなくお伝えします。(以下プロフィールについて)

板橋ザンギエフ(通称:板ザン)

早稲田大理工卒の高学歴プロゲーマー。大学卒業後はエンジニア兼プロゲーマー等を経て、DNG 所属のプロ格闘ゲーマーとなる。主に3D対戦格闘ゲームにおいて、EVOなどの世界的な大会で実績を残す。駆け引きを得意とする頭脳派プレイヤーとして知られ、投げキャラや重量級キャラなど、クセの強いテクニカルなキャラクターを愛用する。

  • ※ EVO:The Evolution Championship Series(エボリューション・チャンピオンシップ・シリーズ)の略称であり、対戦型格闘ゲームのeスポーツ大会。
  • ※ 投げキャラ:主に格闘ゲームにおける投げ技を得意とするキャラクターを指す。扱いの難しいキャラクターであることが多い。
  • ※ 重量キャラ:ゲームにおいて主にパワーと体力を引き換えに動きが遅いキャラクターのことを指す。

“楽しむ”を忘れたプロから破綻していく

今回は率直に聞きたいことをぶつけていきます!他メディアのように気を使っていただく必要はありませんので、専門用語もどんどん使ってください!

それはとても有難いです!こういうインタビューって、自分の紹介や用語の説明をしていたら本題までいけないこともあったりするので(笑)

早速ですが、板ザン選手は「人生の全てを楽しんでいる」という印象です。プロゲーマーとして企業案件なども幅広くされていますが、ビジネスとして“やらされてる”感がありません。ゲームはもちろんのこと、全ての活動を楽しまれている印象です。どうしてこのようなことが可能なのでしょうか?

うーん、どうなんでしょう。これはビジネスの基本なのかもしれませんが、誰かが一方的に得するっていうのは必ず良くない結果になりますし、関わった全員がハッピーにならなければ成功とはいえません。かつて、ゲーム作りやライトノベル監修に携わったのも、「プロゲーマーとして他にお役に立てることがあれば」という気持ちだったんです。

最初からお金ありきで仕事をするのではなく、自分が切磋琢磨した結果に報酬がついてくるという感覚です。先に「給料を上げたい!」と考えるよりも、「こういうこともやりたい!」という行動が結果的に価値に繋がっていく、という順序の方が健全に思えますね。

「“やりたいこと”をやりつつも価値を出す」これは実行しようとすると難しいことではありますが、実際、板ザン選手は試合中も楽しそうにプレイされており、結果も出しています。大会では、観戦しているギャラリーも板ザン選手のプレイを観て沸き上がります。

ゲームの本質である“楽しむ”というのが、常にあるべきだと思います。 元々ゲームは楽しむためのものであって、ゲームの「いろんな楽しみ方ができる」という“懐の深さ”が競技の側面も持ち合わせていた、というだけのことなんですよね。実際、競技として勝つことだけを考えて、破綻しちゃった選手を何人も見てきました。自分もそうならないように気をつけていますね。

プロである以上、勝つことだけを考える選手は少なくないと思います。そのような選手はどうして破綻してしまうのでしょうか?

勝つための精神状態として、最適なバランスがあるんだと思います。勝つことだけを考えてしまうとバランスが悪くなるというか、結局楽しんでる選手が勝つんですよね。
僕の周りでも、ワイワイしながら対戦していて、一見ストイックさが足りないように見えるのですが、それが神バランスだったりします。勝ち続けている人は、そのバランスが感覚的に分かっているんだと思います。

あと、ストイックすぎると周りが見えなくなってしまいます。楽しくやると視野が広がる。格ゲーでいうところの「お洒落コンボ」とか、「あの技からあの技へ繋げたらカッコよくないか?」という、遊び心のある発想から実践的なコンボが生まれることもあるんです。それって、視野が狭くなっている人には絶対に作り出せないものなんですよね。

※ お洒落コンボ:見た目の美しさや操作のテクニカルさが魅力となっているコンボのこと。コンボとして実用的である否かは問わない。

「ゲーム=“遊び”」ではない世代

神バランスを維持することが重要であると分かりました。ただ、自分の精神バランスを意図的に調整するのは難しいことだと思いますが、何か良い方法はありますか?

難しいのですが、僕は練習後にフィードバックしていますね。常に考えているというか。普段当たり前にやっていることでも「それに意味があるのか?」って疑問を持つことが大事です。

“楽しむ”ことが大切だというお話が出ましたが、最近のゲームには最初から「これはeスポーツです」と謳い、“競技”であることをアピールしているものも増えてきました。これからの世代には「ゲーム=遊び」だという入り口を通らずに、“競技”や“仕事”だと認識している層も出てくるかもしれませんが、いかがでしょうか?

なるほど!それはおっしゃる通りだと思います。実際、最近はギラついた若手が入ってきたりもしているんですよね。「勝つと注目されるから始めました」みたいな。それはそれで良いことだと思うんです。注目されたいというのもモチベーションになると思いますし。 でも、ずっとそのスタンスだと視野が狭くなって、結果は出づらいんじゃないかなと思ってしまいますね。

“楽しむ”ことを重要視されている板ザン選手は、そのような考え方の方々とはどのように向き合いますか?

うーん、どうなんでしょう。もしそういう選手がいたとしても、一度でも“楽しむ”ことが結果に繋がった経験をすると、次からもそのやり方を目指すと思うんですけどね。僕らも「楽しむことで良い結果になった!」という成功体験があるから楽しくやっているだけなので。

撮影:大須晶

“いま”はストVに集中しなければならない

板ザン選手の近況についても聞かせてください。DetonatioN Gaming(以下、DNG)に加入された直後は「今後は競技以外のことにも貢献して、プロゲーマーの活動の幅を広げていく」というお話をされていました。当時は、イベントや番組への出演だけでなく、ゲーム制作やライトノベルの監修など、活動は多岐に渡っていました。現状はいかがでしょうか?

少し前まではいろんなゲーム関係のお仕事をやらせていただいて、活動の幅を広げることを意識していました。 ただ最近は極力、本業である「ストリートファイターV」の活動に注力しています。今のストVは度重なるアップデートによってすごいボリュームになっているので、やり込む要素がめちゃくちゃ多くなってるんです。

※ストリートファイターV(ストリートファイターファイブ、STREET FIGHTER V): 2人対戦型の格闘ゲーム。略称は「ストV」と表記される。

アップデートによるボリュームアップといいますと、プレイアブルキャラクターが追加されてキャラ対策が大変になってきたということでしょうか?

※プレイアブルキャラクター: プレイヤー側が操作可能であるキャラクターのこと。

そうですね。あと2019年12月のアップデートで全キャラにVスキル、Vトリガー、それぞれが1つずつ追加され、2種類から1つを選べるように変更されたんです。まず、それらの組み合わせの研究が必要になりますし、同じ対戦キャラであってもVスキル、Vトリガーの組み合わせ次第では戦い方を変えないといけません。
さらには、ライバル選手たちも日々、研究をして戦法を変えてくるので、その変化をキャッチアップするのが大変になってきてますね。

  • ※ Vスキル:ストVにおける各キャラクター固有の特殊技。他の必殺技などと組み合わせて立ち回りに使用される。
  • ※ Vトリガー:対戦中に溜めたゲージを全て消費することで発動できる各キャラクター固有の必殺技。

練習は長くやれば良いという訳ではない(しかし、8時間以上やる)

以前、ストV選手全体のレベルがどんどん上がっているとお話されていました。これは若手の台頭やオンラインでの練習環境によるものだと思いますが、その状況で以前通りの結果を残すのは大変です。単純に練習時間を増やせば良いという問題なのでしょうか?

うーん、そこは難しい問題ですね。確かに昔は1日に3時間程度の練習だったのですが、現状は1日8時間以上やっています。僕は、ゲームとは向き合えるだけ向き合った方が良いと考えています。ただ、それが勝ちに結びついていないと意味がないので、自分が本当に前に進んでいるのかどうかは常に気にしていますね。

あと、練習って「今日もオレ頑張ったなあ」と自分の中で満足しちゃうんですよ!でも、それが結果に結びついていないといけないので、気をつけていますね。

結果が出ていない選手の中には、不安をかき消すように練習に没頭してしまう方もいると耳にします。

それはありますね。がむしゃらに練習するのは1つの手ではありますが、実は思考停止している可能性もあって…。見た目は頑張っているんだけど、結果として「あの人あんまり変わってないよね」となってしまうんですよね。自分もそうならないように、どうやってパフォーマンスを伸ばすのかということは日々考えています。「勝つためにどうするか」というのが命題としてあるので。

板ザン選手の強みの1つとして“分析力”がよく挙げられますが、この能力はどのようにして身に付いたのでしょうか?

投げキャラを使っていることで身に付いた特有の能力だと思いますね。ザンギエフは相手に近づくのが大変なキャラクターなので、自ずと相手の攻撃パターンを分析することになります。

※ ザンギエフ:ストリートファイターシリーズに登場するキャラクター。プロレスラーをモチーフとしており、足の遅さと強力な投げ技を特徴としている。

投げキャラという特殊なキャラクターを練習する上で、意識することはありますか?極端な受けキャラだと、他の方とも練習方法が異なり苦労することもありそうです。

※ 受けキャラ:格闘ゲームにおいては能動的に攻めるのではなく、攻撃を受けつつ反撃の機会を伺うキャラのニュアンスで用いられる。

ザンギエフに限らず、練習方法はキャラによってかなり異なってくると思います。ストVは比較的珍しいゲームで、キャラ毎の特性がかなり違うんです。ダルシムは手足が伸びるし、セスは他のキャラの技をコピーします。

  • ※ ダルシム:ストリートファイターシリーズに登場するキャラクター。手足が長く伸びる特徴から、ザンギエフ等の足が遅く接近戦型の相手とは「近づけるか」「近寄らせないか」がお互いの対戦において重要なポイントになる。
  • ※ セス:ストⅣから使用可能となったキャラクター。他のキャラクターが使用する必殺技を使用できる特殊な性能を持つ。
撮影:大須晶

板ザン選手は、カードゲームもよくプレイされていると聞きます。カードゲームも能動的に攻めるアグレッシブなデッキの場合、自分の攻めの動きを最適化していけば良いですが、受動的に相手の攻撃を捌き続けるコントロールデッキは、相手の攻撃を想定する必要があり、途端に練習が大変になります。似たようなことは格闘ゲームにもあてはまりますか?

そうですね。ザンギエフって、ダルシムに対してはこちらから近づく必要があるので、アグロ戦術を取らないといけません。逆に、向こうから近づいてくるキャラであれば、こちらの対応力が必要になるのでコントロール戦術を取ることになります。
このような戦術の切り替えは、カードゲームから学んだ意識がありますね。

  • ※ アグロ戦術:アグレッシブな戦術という意味のスラング。能動的に攻撃を行う戦術のニュアンスで用いられる。
  • ※ コントロール戦術:相手の行動に対して反応し続け、隙をつくことや長期戦に持ち込むことで勝利を目指す戦術。

「Shadowverse」のプロに移行しようと考えていた時期もあったとお聞きしています。

そうですね。それくらいカードゲームも大好きでよくやっているので。
こういう格闘ゲーム以外の経験も、すべて差として現れてきます。「他のザンギエフではやってこないけど、僕のザンギエフではやること」っていうのが、勝ち負けに直結するんです。それは格闘ゲームの面白いところですし、やり込み要素ですね。

20年近くの付き合い、格ゲー界隈の交友関係

オンラインを中心とした練習の話が続きましたが、オフラインでの練習や交流も多いのでしょうか?

オフラインでの練習会もとても多いです。
e-sports SQUAREに100人くらいで集まってワイワイ練習とか交流をして、そのまま仲間たちと飯を食いに行くってことが多いですね。

※ e-sports SQUARE:秋葉原にある日本初のeスポーツ専用施設。店舗には競技用ステージ、観戦スペースが備わっており、大会や観戦会などe-sportsイベントやゲーム関係全般のイベントが開催されている。現在(2020/9/2時点)はコロナ禍のため対戦会は休止中。

DNGのナウマン選手とは師弟関係であるとも聞きます。普段からも交流はあるのでしょうか?

※ ナウマン選手:DNG所属のプロ格闘ゲーマー。板ザン選手とは古くから交流があり、EVO Japan 2020では優勝を飾った。

彼はDNGに入る前からの格ゲー仲間のひとりという感じで、一緒に海外を回ったこともあります。今、アメリカのEVOなんかはストVだけでも200人くらいの日本人が参加しているんですよ。それくらい日本人の海外遠征は頻繁になっています。みんなライバルではありますが、戦友として海外の選手を倒すために協力し合っていましたね。

撮影:大須晶

格闘ゲームの歴史はとても長く、eスポーツという名前が流行る前から競技シーンは活発でした。交友関係も長いものになりますよね。

ほとんどの方とは10年以上の付き合いになりますね。特にふ~どとはバーチャファイターの頃からなので18年とかの付き合いですね。昔はくだらない喧嘩もしたのですが、最近はみんないい年齢になってきたので、落ち着いてきました(笑)

※ ふ~ど選手:Mildom Beast所属のプロ格闘ゲーマー。2012年4月、板ザン選手と共にスポンサー契約を結びプロゲーマーとなった。

eスポーツは格ゲー文化を殺すのか?

懐かしい話が出ましたが、かつての『闘劇』の頃は“煽り”などが活発で、エンターテイメントとして刺激的でした。現状のeスポーツ化した格闘ゲームシーンについてはどう感じますか。良くも悪くも整備され、大衆化が進んでいる一方、ファンに深く刺さるような個性を失ってきているように思えます。

※ 闘劇:2003年~2012年まで開催されていたエンターブレイン主催の「対戦格闘ゲームの全国大会」のことである。日本全国から募集した店舗(ゲームセンター等)で地区予選を行い、そこで勝ち抜き、青切符を手に入れたプレイヤー(またはチーム)達が、全国大会決勝で優勝を争う。

eスポーツ化によって、格闘ゲームの大会や競技シーンが加速しているのは、めっちゃありがたいことです。
ただ、古き良き習わしや雰囲気が薄まっていくというのは寂しいとも感じます。実際、昔から格ゲー好きだった人にとっては「コレじゃない感」はあると思います。僕もたまにそういう気持ちにはなったりするんですけど。

なんというか…。昔のゲームセンターの雰囲気って独特でしたよね。強くて怖い兄ちゃんがいたりとか(笑)大会の時は少し殺伐としていた環境でもありました。
でも、それが緊張感に繋がるし、ハラハラする空気感を演出していました。そういう環境で育ってきた身としては、その雰囲気が完全になくなってしまうのは寂しいですし、少しでも残していきたいと思いますね。

私もあの雰囲気が好きでした…。

スポーツマンシップの話って、最近のeスポーツでもよく挙がりますし、それはそれで大事なことなので守っていきたいとは思うのですが。
例えば、プロレスってパイプ椅子を使ったりして、滅茶苦茶するじゃないですか(笑)
あれくらいエンタメ要素が強くなると、一般的なスポーツマンシップの枠組みを超えてくる。格闘ゲームを完全に健全なスポーツとして括ってしまうと、エンタメ的な楽しみ方は損なわれてしまう。「スポーツの中にもいろいろあるよね?」とは思いますね。

確かに最近は正直、プロゲーマーの発言に対する世間の批判に「え!これぐらいの言動もアウトなの?」と感じることはあります。

格闘ゲームも、上品さが求められる場であれば上品にするべきなんですが、多少やんちゃしてもいい場所ならやんちゃしたいです。
“煽り合い”って、双方の関係性があるから成り立つことなんですよね。僕たち格闘ゲーマーはみんな付き合い長いですし、外国人でも長い付き合いの選手も多い。そういう関係性がある前提で煽り合ったりしているのは、トータルとして楽しいと思えますよね。

観る側のスタンスも重要なのでしょうか。プロレスも、K-1の感覚で観てしまうと選手の発言とか行動に違和感を抱きます。格闘ゲームは、プロレスのエンタメ要素と、K-1の競技要素が混ざり合っているので、それらの分別ができないとトラブルになり得そうです。

そうなんですよね! 例えば、“A”というゲームの大会を観て、すごくお上品だったから「これがeスポーツなんだ」と思われてしまうと、“B”の大会が少しやんちゃしていたら、「あれはeスポーツじゃない」と言われてしまう。
でも、それはそういうことじゃなくて、「格闘ゲームにもいろいろ色があるんだよ」ということを浸透させていきたい。そこに齟齬があると、観る側もやる側もお互い損してしまう。プロレスでは「そういう楽しみ方をすれば良いのね」という共通認識が長い歴史で根付いているように、格闘ゲームの文化も正しく浸透させていきたいです。

古き良き格ゲー文化の浸透と、eスポーツとしての発展、この2つが足並み揃うと本当に最高だと思います!
貴重なお話をありがとうございます。板ザン選手がプロという厳しい世界でも笑顔でプレイされている理由や、これからの競技シーンとどのように向き合っていくのかが分かりました。本日はありがとうございました!

DetonatioN Gaming(デトネーション・ゲーミング)

「DetonatioN Gaming」は、世界大会の出場経験がある国内トップレベルの『プロeスポーツ』チーム。
所属選手の人数は40名を超え、チームとしてのブランド力はFPS(VALORANT)、MOBA(LoL)、TPS(PUBG、スプラトゥーン2)、TCG(シャドウバース)、格闘ゲーム(ストリートファイターV)、対戦アクション(大乱闘スマッシュブラザーズ)、サッカーゲーム(ウイニングイレブン)など幅広く及んでおり、常に世界の舞台で勝つことを目標に掲げている。

League of Legends(LoL)部門チーム「DetonatioN FocusMe」を2015年2月より国内初の「フルタイム・給与制」とし、2016年3月にはチーム所属の外国人選手に対して「アスリートビザ」を取得するなど、日本におけるプロeスポーツチームのパイオニアとして注目を集めている。

DetonatioN Gaming 公式サイト

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