現役音大生でありプロゲーマー!
異色の組み合わせでeスポーツ界に現れた新星、AstrazZ(アストラ)選手。音楽ではゼロから楽器に取組み音楽大学に合格、ゲームでは「PUBG MOBILE」部門の設立をチームに直接依頼し実現。現役音大生プロゲーマーとして2つの挑戦に立ち向かう彼には、天性ともいえる“周囲を動かす力”が秘められていました。
今回のインタビューでは、AstrazZ選手の思考回路と1日のスケジュールに迫ります。

“2つ”とも極める

世間では、「プロゲーマーは、ゲームだけをやっている」というイメージを持っている人が多いと思います。しかし、AstrazZ選手は音楽大学の学生とプロゲーマー、2足のわらじを履いていてとても珍しいです。

僕もプロになる前はそのイメージでした。「プロゲーマーってゲームしかしていないのかな」と思っていたのですが、実際は今回のようなインタビューの仕事もあったり、スポンサー企業さんとの仕事もあったり、結構いろいろやってるということが分かりました。他のDetonatioN Gaming(以下、DNG)の選手はテレビ番組にも出たり、「すごいなぁ」と思っています。

2つのことを極めようとすると「え?それってできるの?」と世間から疑問視する声も挙がると思います。実際、大変ではないのでしょうか?

正直、どちらか片方に絞った方が楽だとは思います。実際、「PUBG MOBILE」の大会予選と、大学の大事なテストの準備が被った時は大変でした。
ただ、大変ではありますが苦ではありません!どちらも好きなことをやっているので楽しいですね。

ゲームをやっているときはそれだけに没頭できるんです。これは楽器も同じで、一回スイッチが入るとやり続けられます。自分の好きなことだったらできてしまうタイプなので、その点ではゲームと楽器は共通していますね。

AstrazZ選手「僕たちのチームを作ってください!」

本当にご自身の選択で自分の人生を歩んでいる、という印象を受けました。昔からそのような性格だったのでしょうか?

とにかく自分で行動することが大切だと思っています。高校生のときにも「音楽をやりたい!」と思ったので、自分でフルートの先生を探しました。結果的に、日本一の実績を持つ先生に講師として教えてもらうことになりました。当時、フルートの演奏経験はゼロだったのですが、その先生のおかげで今の音楽大学に入ることができました。

あと、現在所属しているDNGの運営にも、以前「PUBGのモバイル部門を設立してください!」とダイレクトメッセージを送ったんです。正直、返事が返ってくるかどうかも分からなかったのですが行動しました!

圧巻の行動力です。同世代でもAstrazZ選手のように動ける人は周りにいないと思います。ここまで積極的に動ける原動力は何なのでしょうか?

やっぱり、高校生のときに大胆に行動してみて成功した経験が大きいですね。まさか、僕みたいな楽器の初心者が、日本一の先生に教えてもらえるようになるとは思っていなかったので。
もちろん先生に納得してもらう必要があったので、「音楽大学行きたいので、教えてください!」と頑張って頼み込みました。

2つともサラっとおっしゃいましたが、すごいコトをやっていると思います。お話していて受ける温厚な印象とギャップがあるといいますか、とにかく行動力が凄まじいです。

先生には「きみはマイペースだね」と言われていました。「行動力がある」とはあまり言われないですね。ただ、「すごく運がいいね」とはよく言われます(笑)

楽器もゲームも練習は朝にやるべき!

毎朝、楽器の練習をされているとのことですが、本日もされていたのでしょうか?

普段はそうですね。ただ、学校での実技試験が終わったばかりなので、最近は練習を休んでいます(笑)

音楽大学なので試験には楽器の実技試験もあるんですね。朝一で練習をしている理由は何でしょうか?

音楽家って、朝に音が出ないと話にならないんです。たとえば、午前中に演奏の本番があるよってなったときに、すぐに本調子が出せないといけない。「朝起きてすぐに、いつも出せている音を出せるようにならないと駄目だよ」と高校のときに担当してくれた音楽の先生に教えてもらいました。

似たような理由で、ゲームの練習も本当は朝にやった方がいいと思っています。大会も午前中から出番があると、その時に力を発揮しないといけないので。朝にすぐ指が動くかとか、感覚が残っているかを確認するのは大切だと思います。

トークスキルの磨き方は“猫”を可愛がること??

プロを目指したきっかけが「好きなゲーム配信者が元プロだったから」とのことでしたが、今でも他の方のゲーム配信を見る機会は多いですか?

多いですね。FPS実況者の配信を中心に、大学からの帰宅途中にスマホやノートパソコンで観ています。AQUOSは画面が大きいので見やすいですね。

※ FPS(ファーストパーソン・シューティングゲーム):1人称視点でプレイするゲーム。

以前、「トーク力を向上させてファンやリスナーを増やしていきたい」と仰っていましたが、そのように考えるのも実況者さんの配信を見ていた影響が大きいのでしょうか?

そうですね。KUNさんの配信を昔からよく観ています。KUNさんはトーク力が本当にすごくて、いろんなことを喋る方なんです。経験が豊富なのと人脈が広いからなのか、いろんなことを知っている方で、とても尊敬しています。

※ KUN:登録者が100万人を超える日本のYouTuberであり、FPSゲームを中心に活動する元プロゲーマー。現在は日本とシンガポールを行き来しながら活動している。

AstrazZ選手自身にも知識欲があり、その知的探求心がプロゲーマーや音大への挑戦に繋がっているんでしょうか?

そうですね!そうだと思います。「ゲームのプロってどんな感じなんだろう?」と思っていました。

トークスキルや表現力を磨くために、日々意識していることはありますか?

僕は動物が大好きなので、ほぼ毎日Twitterに自分の猫の写真を上げています(#あすとら猫日記)。そのツイートで「可愛い」という単純な表現だけでなく、もっとお洒落な表現をしてあげられるように頑張っています。動物って毎回、写真での表情が違うので、その可愛さを上手く言葉にしたいと思っています。

より表現を豊かに説明することを意識されているんですね。確かに毎日猫の写真が掲載されています(笑)AstrazZ選手は本当に動物が好きなんですね。

はい!大好きですね。動物関係の動画もよく見ています。とても癒されます!

適度に休憩すると“覚醒”する

過去にも別のFPS系ゲームをされていたとのことですが、他のFPSと「PUBG MOBILE」にはどのような違いがあるのでしょうか?

ほとんどのFPSでは考えることはそこまで多くないというか、どちらかというとエイムや立ち回りが重要視されます。
対して、「PUBG MOBILE」は試合中に処理しなければならない情報量が多く、考えることがたくさんあります。強ポジと言われる場所や安全地帯も毎回異なっているので、多くのことを考える必要がありますね。

  • ※ エイム:英語で「狙いをつける」という意味の言葉。ゲームでは武器の「照準を合わせる」という意味で用いられる。
  • ※ 強ポジ:強いポジションという意味の言葉。主に、相手から見つけられにくく、自分からは相手を視認できる場所のことを指す。

確かに、「PUBG MOBILE」は全体の状況を把握することも求められるゲームですね。AstrazZ選手は、ゲームは練習すればするほど上手くなるという考えでしょうか?

僕の場合は、適度に休憩を入れた方がパフォーマンスは良くなりますね。1日休んで、次の日にやると急に覚醒することもあるんです。無理に毎日練習すると、手の形が固定されてやり辛くなることもあります。

チームの雰囲気が重要である理由

チームではリーダーを務められているAstrazZ選手ですが、もし明確な結果が求められる状況下でチームの調子が良くない場合、どのような指示を出されますか?その場合、練習時間を増やすようなことはされますか?

いいえ、練習時間は増やさないと思います。急に過度なトレーニングをしたとしても、すぐに結果は出ません。オフシーズンも含めてコツコツとやり続けることの方が大切になってくると思います。楽器も同じですね。勉強はコツコツできていないのですが(笑)

あと、ちょっと息抜きすると結果が出たりもします。前回の「PUBG MOBILE JAPAN CHAMPIONSHIP」でも、試合に負けてチーム全員が落ち込んでいたのですが、インターバル中に「ちょっと(トランプの)大富豪やる?」という話が挙がり、数回遊んでリラックスすることで、次の試合に勝てたんです。「ドン勝とれて良かったねー!!」「やっぱり息抜きって大事だね」とみんなで話していました。

負けているとチームの雰囲気も悪くなってくるんですよね。そんな雰囲気だと仲が悪くなってしまうし、良いアイデアも出てこなくなってしまいます。チームの雰囲気はとても大事ですし、長期戦だと特にそれを感じます。

メンバーとの関係性やチームの雰囲気が重要になってくるんですね。AstrazZ選手がチームの雰囲気を大切にするようになったキッカケはありますか?

昔、別のFPSをやっていた頃にもチームに入っていたのですが、そのチームの雰囲気がとても良かったんです。そのチームは僕以外の皆さんがとても上手くて「どうして僕なんかが誘ってもらえたのかなぁ」と疑問だったのですが、「一緒にやっていて楽しいから!」と言ってもらえたんです。
そのチームでは皆さんにいろいろなことを教えていただきました。今まで出会ってきた方々が皆さん良い人過ぎるんだと思います。

とても素敵です!話をお聞きしていると、AstrazZ選手の人柄が周りに素敵な人たちを引き寄せているように感じます。他の選手の方とはどのような交流がありますか?

同じくDNGのチームに所属しているS4nkaRea(さんかれあ)選手とはよく遊びます!家に泊まりに行ったこともありますね。彼が初心者だった頃に、僕たちがチームに招き入れたんです!彼は僕たちが育てました(笑)

音楽講師×チームマネジメント、既に見据える未来

最後になりますが、AstrazZ選手の未来についても聞かせてください。音楽の講師を目指されているとのことですが、その場合もプロゲーマーとの兼業を考えていますか?

そのつもりで考えています!将来的には選手を支える側に回ることを考えています。

現段階でそこまで周りが見えているというか、マネジメントへの移行まで想定して動いている選手は珍しいと思います。この考え方も音楽の先生からの影響なのでしょうか?

それもありますが、以前所属していたチームではスクリムの募集やチーム全体の管理を僕がやっていました。この経験が大きいです。チームのことを考えてマネジメントすることが、とても楽しかったんです。すぐに引退することを考えているわけではありませんが、プレイヤーとして全てをやりきった上で、他選手のサポートを時間が許す限りやっていきたいと考えています。

※ スクリム:練習試合のこと。ライバルチームを誘致したり、メンバーを2つのチームに分けたりして行うことが多い。

AstrazZ選手ご自身では「運がいい」と表現されましたが、お話しぶりやお人柄から「周囲に人を引き寄せる魅力」が溢れている方だと感じました。周囲の方に支えられつつも、周囲の方を動かしていくAstrazZ選手だからこそ、音楽とプロゲーマーの二刀流が成り立つんですね。本日は本当にありがとうございました!

DetonatioN Gaming(デトネーション・ゲーミング)

「DetonatioN Gaming」は、世界大会の出場経験がある国内トップレベルの『プロeスポーツ』チーム。
所属選手の人数は40名を超え、チームとしてのブランド力はFPS(VALORANT)、MOBA(LoL)、TPS(PUBG、スプラトゥーン2)、TCG(シャドウバース)、格闘ゲーム(ストリートファイターV)、対戦アクション(大乱闘スマッシュブラザーズ)、サッカーゲーム(ウイニングイレブン)など幅広く及んでおり、常に世界の舞台で勝つことを目標に掲げている。

League of Legends(LoL)部門チーム「DetonatioN FocusMe」を2015年2月より国内初の「フルタイム・給与制」とし、2016年3月にはチーム所属の外国人選手に対して「アスリートビザ」を取得するなど、日本におけるプロeスポーツチームのパイオニアとして注目を集めている。

DetonatioN Gaming 公式サイト

インタビュアー:小川翔太
WEB編集者/ eスポーツジャーナリスト
Twitter:https://twitter.com/oga_5648

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