新型コロナウイルスの感染拡大により、日本では緊急事態宣言が発令、諸外国では大規模な都市封鎖が施行されました。それに伴い、フィジカルスポーツの中には、大会・イベントの延期または中止を発表しているものもあります。

多くのリアルイベントが延期・中止を余儀なくされている中、eスポーツのイベントも少なからず影響を受けています。ただし、eスポーツのイベントはオンラインでも実施できるものが多く、インターネットでの試合配信やオンライン対戦などによって、今でも多くのイベントが開催されており、withコロナ時代の打開策の1つとして世界的に脚光を浴びています。
VRや無観客試合など、新しい形式で実施されたイベントを例に、オンライン化するeスポーツが抱える課題と今後の展望を紐解いていきましょう。

目次

  1. オンラインに対応したeスポーツイベント
  2. フィジカルスポーツもeスポーツへ
  3. 今後の課題と展望
  4. さいごに

オンラインに対応したeスポーツイベント

ここでは、新型コロナウイルス感染防止のため、試合の無観客化やオンライン化への対応を施したeスポーツイベントを紹介します。
単なるオンラインへの対応だけでなく、VR技術の導入などの次世代に繋がる新たな試みもなされています。

V-RAGE(Shadowverse)

2020年3月15日に行われた「RAGE Shadowverse 2020 Spring GRAND FINALS」は無観客試合として実施されました。
この大会ではバーチャル空間でのeスポーツ観戦が可能となる「V-RAGE」のβ版がリリース。試験的に、スマートフォン、PC、VRデバイスで参加できるVR空間のイベントとして提供されました。
観客は「cluster」というアプリをインストールしてバーチャルイベントに参加。さらに、VRデバイスを用いることで、より臨場感ある体験が可能となりました。

また2020年8月29日、30日に開催される「RAGE ASIA 2020」では「V-RAGE」のアップデート版が導入予定です。アバターや服装の選択ができ、仲間や友人同士でボイスチャットができる「グループビューイング機能」が追加されるとのことです。

LJL 2020 Spring Split無観客試合(リーグ・オブ・レジェンド)

「リーグ・オブ・レジェンド(LoL)」の国内プロリーグ「LJL(League of Legends Japan League)」は、レギュラーシーズンの一部試合を無観客で開催しました。
各選手・解説陣などの出演者もそれぞれ別室で収録を実施。試合後のヒーローインタビューや試合ハイライトの解説等はオンラインにて行われました。

フィジカルスポーツもeスポーツへ

安全面に配慮して通常開催が困難となったフィジカルスポーツですが、eスポーツの形式を取り入れることでファンを楽しませるイベントを実施しています。その多くは新型コロナウイルス収束後にも実施して欲しいくらい魅力的なイベントです。
ここではフィジカルスポーツがeスポーツの要素を取り入れた、新たなエンターテイメントを紹介します。

Stay at Home Slam(マリオテニス)

2020年5月4日に北米で開催された「Stay at Home Slam」では錦織圭選手、大坂なおみ選手、ウィリアムズ姉妹など、世界の名立たるテニスプレイヤーがNintendo Switch「マリオテニス エース」で対戦しました。

本大会は、北米のIMGテニスアカデミーが主催するチャリティーイベントとして実施され、選手は北米各地からオンラインでトーナメントに参加しました。参加した選手全員に参加賞金が与えられ、トーナメント優勝者には約1億円の優勝賞金を贈呈。これらの賞金はすべて新型コロナウイルス感染症対策のための基金に寄付されました。

F1公式eスポーツ・バーチャル・グランプリ

F1は新型コロナウイルス感染拡大の影響で、2020年シーズンの延期または中止になるとのこと。そのため、シーズンのスタートを待つF1ファンを楽しませるために、公式ゲーム「F1 2019」を用いたバーチャルグランプリを開催しています。

モナコGP(オフライン)の開催予定日であった5月24日には「F1公式eスポーツ・バーチャル・グランプリ第6戦モナコ」が開催されました。出場選手は現役F1ドライバーだけでなく、サッカー選手やミュージシャンなど様々な業界に渡り、各選手は自宅等から試合に参加しました。

今後の課題と展望

オンラインへの対応を始めたeスポーツ業界ですが、これからどのような発展が期待されているのでしょうか。今後の課題と展望をまとめていきます。

配信特有の“バズらなさ”をどう乗り越えるか

ネット配信のみのイベントにつきまとう課題として「バズらなさ」が挙げられます。

幕張メッセや東京ビッグサイトなど、コンベンション施設を利用してのリアルイベント開催は、ゲームイベントとしての権威を示す1つ機会ともいえました。それは、ゲームにそこまで興味のない潜在層への訴求ポイントであり、世間に存在感を示す場でした。
また、顕在的なゲームファンにとっても、PCやスマートフォンの画面上でしかイベントを楽しむことができないので、リアルイベントと比べると満足度が低くなるケースもあります。

リアルイベント特有のサプライズやアクシデントは、SNS上で情報が拡散される要素の1つでした。淡々と進むオンラインイベントでは、どうやって自然にバズらせるかが課題といえます。
リツイートキャンペーンのようなマーケティング感が強い手法ではなく、ユーザーが自ら拡散・共有したくなるような出来事が必要になるでしょう。

失われた“感覚”をどう補完するか

実イベントが与えてくれる体験は、試合を“見る”、音を“聴く”だけではありません。
選手と握手するなどの“触れる”行為、会場内を移動するなどの“歩く”行為、このような身体全体を用いる体験が実イベントにはたくさんありました。

一般的に、嗅覚や皮膚感覚など、複数の感覚の刺激を伴った経験ほど、記憶の定着性が高いといわれています。イベントでの体験をより強烈な体験として記憶してもらうためには、できるだけ多くの感覚を体験してもらう必要があるでしょう。

eスポーツのイベントに限らず、アートやサイエンスの分野においても、五感で体験させることの重要性は指摘されています。withコロナ時代において、VRやARといったテクノロジーでどこまで補うことができるのでしょうか。今後も注目が集まります。

“偶然性”をバーチャル空間にどう取り入れるか?

VR空間や動画配信プラットフォームのクオリティの向上によって、私たちはPCやスマートフォンでもリッチな映像体験を得られるようになりました。

ただし、リアルイベントにあったような“偶然性”の高い体験をオンラインで得ることは難しいのが現状です。
例えば、会場内の移動中に目に飛び込んでくるコンテンツとの出会い、友人や仲間との再会など、これらの偶然が及ぼす機会は企業にとっては宣伝およびマネタイズポイントであり、ユーザーにとってはエキサイティングな体験でした。

今後、VRコンテンツがリアルイベントの代替物として盛り上がるためには、現実のイベントでユーザーが無意識に得ていた体験を可能な限り拾い集め、オンライン上に再現できるかが重要になってくるのかもしれません。

“希少性”を現実空間でどう盛り上げるか?

気軽に人と“会う”ことが難しくなった現状、以前のように選手とファン、さらにファン同士が触れ合う日々は簡単に戻ってはこないのかもしれません。これによって、リアルイベントでの触れ合いの機会はより貴重なものとなり、その体験は価値を高めるといえるでしょう。
リアルイベントが再開したとしても、その観客収容数は制限されると予想されます。販売チケット数も限定的になり、価格にもプレミアがつくかもしれません。
当たり前ではなくなった“会う”という価値をどれだけブランディングできるかが、今後のeスポーツには必要な考え方と言えます。

さいごに

気軽に外出できない日々が続いたとしても、eスポーツのコンテンツは十分に楽しむことができます。
実イベントの盛り上がりと比較すると、まだまだ課題が多いオンラインイベントですが、最先端のテクノロジーやアイデアを取り入れ、新たな価値観を作り上げる機会にもなっています。

これからは楽しみを育む場としての“オンライン”、蓄積した楽しみを共有する機会としての“オフライン“など、各イベントの役割がより明確化するでしょう。いま、eスポーツはwithコロナ時代の新しいエンターテイメントの形を模索しているのです。

この記事をシェアする