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発表会レポート

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タンパク質分析装置(2次元電気泳動の完全自動化)の開発に成功
2011年9月5日、当社は、熊本大学及び、科学技術振興機構(JST)と共同で、大阪で開催しました発表会の模様をご紹介します。

当社 研究開発本部 健康システム研究所は、JST研究成果展開事業【先端計測分析技術・機器開発プログラム】の一環として、熊本大学大学院生命科学研究部の開発チームと、タンパク質分子の混合物を全自動で分離できる装置を開発しました。
これは、それぞれのタンパク質分子が持つ物理的性質の違いを利用して分離する「タンパク質2次元電気泳動法注1)」の自動化に成功したもので、本装置を使用すると、従来の手作業では2日間かかっていた作業時間が、その10分の1である約100分に短縮できます。また、本装置の分析精度(分解能)は従来法の5倍で、かつ再現性のよい結果をもたらします。

近年、ヒトの体内のタンパク質の微細な変化を捉えて病気予防につなげる研究やその成果をデータベース化する「プロテオミクス注2)」とよばれる研究が進められており、世界規模で注目されていますが、今回、開発に成功したタンパク質分析装置は、多くのタンパク質の微細な化学的変化を、より正確に短時間で再現性よく検出できます。同時にこの成果は、プロテオミクス分野の基礎・応用研究を大きく発展させるものです。
また、タンパク質の電荷や大きさといった固有の性質の違いを利用し、等電点注3)で0.02pH、分子量注4)で2kDaもの分解能で分離できます。この分解能は、タンパク質に1分子のリン酸が付くという、従来法では分離できなかった変化をも見分けることが可能です。

熊本大学大学院生命科学研究部の荒木令江准教授は、本装置を用いて、ビメンチン注5)と呼ばれるタンパク質にリン酸が付加(リン酸化注6))したり分解されたりする現象が、がんの悪性化に関連することがわかりました。また、脳腫瘍由来のビメンチンについて、変化パターンの個人差を解析し、特定の抗がん剤に対する「効きやすさ」も分析できることを見出しました。

本装置と検査用の専用チップは、医療研究分野向けにシャープマニファクチャリングシステム株式会社が9月から販売開始します。
会場の模様
会場の模様
副社長執行役員 技術担当 兼 東京支社長 太田 賢司 熊本大学大学院 生命科学研究部 腫瘍医学分野 准教授 荒木 令江
副社長執行役員 技術担当 兼 東京支社長 太田 賢司熊本大学大学院 生命科学研究部 腫瘍医学分野 准教授 荒木 令江
タンパク質分析装置 Auto2D
タンパク質分析装置 Auto2D

本開発成果は、以下の開発課題によって得られました。
事業名JST研究成果展開事業【先端計測分析技術・機器開発プログラム】プロトタイプ実証・実用化タイプ
開発課題名「全自動2次元電気泳動・ウェスタンブロッティング装置の開発」
チームリーダー鵜沼 豊 (シャープ株式会社 研究開発本部 健康システム研究所 第二研究室 室長)
サブリーダー荒木 令江(熊本大学大学院 生命科学研究部 腫瘍医学分野 准教授)
開発期間平成21〜23年度(予定)
担当開発総括尾形 仁士(三菱電機エンジニアリング株式会社 相談役)
 JSTはこのプログラムのプロトタイプ実証・実用化タイプで、プロトタイプ機の性能の実証ならびに高度化・最適化、あるいは汎用化するための応用開発を行い、実用化可能な段階まで仕上げることを目的としています。
注1) 2次元電気泳動法
タンパク質を分析する方法の一つ。先ずタンパク質の持つ等電点注3)の違いによってタンパク質を分離した後、タンパク質にSDS(ドデシル硫酸ナトリウム)により負電荷を持たせ、矩形の2次元目の電気泳動ゲルに接続し分子量注4)の大きさで分離する。
注2) プロテオミクス
遺伝子(ゲノム)を網羅的に研究する分野であるゲノミクスという言葉とタンパク質を意味する英語プロテインから作られた、タンパク質を網羅的に研究する分野。疾病や成長などの生命現象を解明するにあたり、プロテオミクスはゲノミクスよりも多くの情報を与えると言われている。
注3) 等電点
タンパク質の持っている電気化学的な性質。タンパク質は水に溶けた状態では周りのpHにより電荷が変化している。等電点とは、タンパク質の電荷がゼロとなるpHのことを指す。pHが酸性から塩基性まで勾配を持つゲルにタンパク質を導入し、電圧を印加すると、タンパク質はその電荷によって力を受けて移動するが、電荷がゼロとなる場所に到達すると動けなくなる。これを等電点電気泳動と言い、タンパク質の分離方法として使われる。リン酸化により等電点は、0.1〜0.05程pHが変化する。
注4) 分子量
分子の重さ。タンパク質は20種類のアミノ酸が数100個結合した紐状の分子であり、分子量はDa(ダルトン)という単位で呼ばれ、数1,000Daから数100,000Da。2次元電気泳動の2次元目電気泳動では小さな分子量のタンパク質は早く進み、大きなタンパク質はゲルの網目の影響で遅くなるため、一定時間の電気泳動後、分子量の相違による分離を得ることができる。
注5) ビメンチン
細胞の形を形成するタンパク質(細胞骨格タンパク質)の一種。細胞増殖に関係すると言われているが、役割は謎が多い。
注6) リン酸化
タンパク質にリン酸基を付加させる化学反応。多くのタンパク質で生じる反応であり、タンパク質の機能が働く際、リン酸化によりスイッチのオン・オフが制御されていると言われている。リン酸化を起こすのもタンパク質(リン酸化タンパク質)であり、リン酸化タンパク質がリン酸化を開始するのも自身のリン酸化の場合が多く、カスケード的な反応のネットワークを形成して生物の機能を担っている。がん化において、タンパク質のリン酸化は重要なファクターとなっている。高分解能の2次元電気泳動によりリン酸化を分離できる。

プレスリリース

タンパク質分析装置(2次元電気泳動の完全自動化)の開発に成功

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