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ニュースリリース 2011年9月5日
<開発の背景と経緯>
 2003年にヒトの全遺伝子解読が完了して以来、遺伝子に記録された設計図から生命活動を解読する研究が活発化しました。病気になるメカニズムの理解や一人一人の個性の違いも研究対象となり、遺伝子の解読装置も高速化しています。
 しかし、生命活動を実際に担うのは、遺伝子をもとに作られる多くのタンパク質です。これらは、合成された後に受ける化学的な修飾や分子の切断などによって変化し続けます。具体的には、数万種類の遺伝子から合成されるタンパク質は、その10倍の数十万種類にも上ります。また、同じ遺伝子を持っていても機能が異なる細胞では合成されるタンパク質が異なりますし、がん化した細胞のタンパク質は、正常時と異なる化学変化を受けています。つまり、病気などのメカニズムや薬の効き方などを解明するためには、遺伝子だけではなく、タンパク質を網羅的に研究する必要があります。
 こうした、タンパク質の種類や変化を研究する学問分野は、プロテオミクスと呼ばれ、近年大きな注目を集めています。しかし、従来から行われてきた2次元電気泳動法と呼ばれる分析法は、操作が非常に難しく、再現性のよい結果を得るためには、熟練した研究者が数日かけて作業する必要がありました。そのため、多くのタンパク質の変化を網羅的に研究するためには、簡易で高速なタンパク質解析手法の開発が求められています。
 シャープは2009年から、JST研究成果展開事業【先端計測分析技術・機器開発プログラム】にて熊本大学大学院生命科学研究部と共同で、2次元電気泳動法と分離したタンパク質を分析する手法の自動化技術の実用化にむけて開発を行っています。この度、全自動の2次元電気泳動装置の開発に成功しました。今回開発した装置を用いると、従来法と比べて約10分の1の時間で、誰が操作しても再現性のよい結果を得られます。さらに、従来法に比べ約5倍の分解能を有しているので、疾病のパターンなどをより正確に分析することが可能となります。
 本装置は、測定用サプライ品とともに、シャープマニファクチャリングシステム株式会社より9月中に研究機関向けに発売されます(写真1)。


写真1 全自動2次元電気泳動装置


<開発の内容>
 2次元電気泳動法は、各タンパク質分子の持っている2つの物理的性質(等電点、分子量)の違いを利用して、タンパク質の混合物を2次元的に分離する方法です。実際には、タンパク質の混合物を特殊なゲルの中を通過させることで、分子量や等電点の違いで分離します。1次元目の分離は、タンパク質のもつ電気化学的性質の一つである等電点の違いを利用して行います。細長い分離用ゲル注7)上に、何種類ものタンパク質が含まれる試料を置いて高電圧をかけます。すると、それぞれの等電点の値に応じてタンパク質が分離します。2次元目の分離は、タンパク質の分子量の違いを利用して行います。1次元目の分離が完了した分離用ゲルを、長方形の2次元目ゲルの一辺に接続します。そこに電圧をかけると、分子量に応じてタンパク質を分離することができます。最終的には、矩形のゲルシート内に、分離された各タンパク質を、それぞれ異なる点として確認することができます。
 従来法では、2次元電気泳動の一連の操作は全て手作業で行われていました。これらの操作は煩雑で、再現性の良い結果を得るためには高度な技と熟練が必要でした。また、分析開始から結果を得るまでに2日間かかるため、大量のサンプル分析を必要とする臨床研究においては、ごく限られた利用に限られていました(図1)。


図1 2次元電気泳動法と全自動化
2次元電気泳動はタンパク質のもつ2つの性質(電荷量と分子量)で分離する方法。1次元目分離用のゲルにタンパク質を導入して電圧を印加するとそれぞれの等電点(電荷量と関連する値)で決定される位置にフォーカスされる。2次元目の分離用ゲルの端面に1次元目電気泳動後のゲルを接続し、電圧を印加することにより分子量の差によるゲル中の泳動速度の差により分離され2次元の分離が完了する。従来はすべて手作業で2日間要した操作を全自動化し100分での完了を達成した。


 本開発チームは、自動化における課題となっていた、変形し易く取り扱いが困難な分離ゲルの搬送機構と精密位置制御機構を開発し、自動化に成功しました。また1次元目電気泳動に高電圧を加えるための精密制御システムを開発し等電点の分離性能を改善しました(図2)。これらの技術開発により、分析試料等のセッティングをした後は、ボタン一つで2次元電気泳動の結果を得ることができます。しかも、分離時間は100分という短さで、従来の約10分の1です。また、疾病等に関る重要な化学変化であるタンパク質のリン酸化の有無を、リン酸分子ごとに分離可能な高分解能を実現しました。これらの性能向上に加えて、全作業を自動化したことで手作業による誤差がなくなり、各タンパク質のスポット位置、スポット強度の再現性が向上しました。これは、従来困難であったサンプル間の定量的な比較を可能とするものです(表1)。


図2 全自動2次元電気泳動装置の内部機構図
1次元目ゲルを端面に配した支持基板を精密搬送機構が自動搬送。1次元目ゲルへのサンプル導入の後、1次元目泳動位置へ搬送し、高電圧を印加し等電点電気泳動。終了後、化学処理を自動で行い、2次元目ゲル端面へ移動。接続位置の精密制御(1μm単位)の後、電圧を印加して2次元目電気泳動。サンプル、バッファ等をチップへセットの後、完全自動で分離終了。


表1 従来技術との比較
要素技術 従来技術本開発
操作性ゲルの取り扱いに熟練が必要新機構によりゲル接続も含めて完全自動化
→誰が操作しても同一結果
再現性手操作の僅かなずれが結果に影響自動化により高い再現性
→定量的分析が可能
分解能~0.1pH0.02pH
→タンパク質のリン酸化によるシフト(0.1~0.05pH)を分離可能
分析時間2日間を要する100分間
→短時間化により、臨床研究に必要とされる多数サンプルを分析可能


 熊本大学大学院生命科学研究部の荒木令江准教授は、国内でもトップレベルの病態プロテオミクスコアシステムを熊本大学でオーガナイズしていますが、本装置をプロテオーム解析のための重要な装置の一つとして活用する方法論を確立しました。すなわち、本装置を最適化することによって、今まで簡単に得る事のできなかった微量な組織や細胞や体液からの複数のタンパク質の発現や修飾変化の情報を迅速に得る事ができる様になりました。また、大型質量分析器や遺伝子発現解析装置を含む一連の生体分子解析装置群から得られる何十万という病態関連タンパク質の情報を、本装置を用いて迅速に検証できることを証明しました。これによって、多数の腫瘍サンプルを中心とした病態関連組織/細胞や体液のタンパク質解析を行うことが可能となり、病態のマーカーや治療ターゲットの候補となる新しいタンパク質の発現変化や化学修飾の情報を得ることができることを実証しました。特に難しいとされた腫瘍組織からのタンパク質調製法を確立し、腫瘍に関連したタンパク質には、リン酸化や様々な化学修飾がおこっており、腫瘍の悪性化に関わっていること、また、これらのタンパク質のスポット位置や量の変化パターンの個人差を解析し、特定の抗がん剤に対する「効きやすさ」を分析できることを明らかにしました。さらに、本装置を用いて薬効メカニズムを解明して、創薬にもつながる情報を得る事も可能であることを見出しました(図3、図4)。



図3 本開発装置を用いたビメンチンタンパク質の分離
本開発装置は1次元目電気泳動において高電圧(~9000V)印加が可能であるため、短時間で高分解能分離結果を得ることが可能。疾病等に関わるタンパク質のリン酸化シフト、N末端の切断が分離可能。



図4 抗がん剤の感受性・非感受性を2次元電気泳動パターンで判断可能
脳腫瘍の治療に用いられる抗がん剤が効く(感受性)患者と効かない(非感受性)の患者がいる。本装置を用いた2次元電気泳動により、感受性患者と非感受性患者のビメンチンリン酸化パターンに明確な違いがあることが明らかとなった。


<今後の展開>
 今回開発した装置は、全自動かつ短時間で2次元電気泳動結果をもたらします。これにより、大量の臨床データを処理することが必要であった疾病プロテオミクス分野でも、広く2次元電気泳動法を用いることが可能となります。さらに、医学研究のみならず、製薬業界や食品検査等でタンパク質を網羅的に分析したり、微細な化学変化を含む分析が必要とされる分野でも、本成果の利用が期待されます。
 本開発課題では、現在、2次元電気泳動で分離したタンパク質を、ウェスタンブロッティングと呼ばれる技術を用いて同定するところまでを全自動化する機構の開発も行っています。これが実現されると、プロテオミクス研究のさらなる加速につながり、当該分野の発展に大きく貢献することができます。


<用語解説>
注1) 2次元電気泳動法
タンパク質を分析する方法の一つ。先ずタンパク質の持つ等電点注3)の違いによってタンパク質を分離した後、タンパク質にSDS(ドデシル硫酸ナトリウム)により負電荷を持たせ、矩形の2次元目の電気泳動ゲルに接続し分子量注4)の大きさで分離する。

注2) プロテオミクス
遺伝子(ゲノム)を網羅的に研究する分野であるゲノミクスという言葉とタンパク質を意味する英語プロテインから作られた、タンパク質を網羅的に研究する分野。疾病や成長などの生命現象を解明するにあたり、プロテオミクスはゲノミクスよりも多くの情報を与えると言われている。

注3) 等電点
タンパク質の持っている電気化学的な性質。タンパク質は水に溶けた状態では周りのpHにより電荷が変化している。等電点とは、タンパク質の電荷がゼロとなるpHのことを指す。pHが酸性から塩基性まで勾配を持つゲルにタンパク質を導入し、電圧を印加すると、タンパク質はその電荷によって力を受けて移動するが、電荷がゼロとなる場所に到達すると動けなくなる。これを等電点電気泳動と言い、タンパク質の分離方法として使われる。リン酸化により等電点は、0.1~0.05程pHが変化する。

注4) 分子量
分子の重さ。タンパク質は20種類のアミノ酸が数100個結合した紐状の分子であり、分子量はDa(ダルトン)という単位で呼ばれ、数1,000Daから数100,000Da。2次元電気泳動の2次元目電気泳動では小さな分子量のタンパク質は早く進み、大きなタンパク質はゲルの網目の影響で遅くなるため、一定時間の電気泳動後、分子量の相違による分離を得ることができる。

注5) ビメンチン
細胞の形を形成するタンパク質(細胞骨格タンパク質)の一種。細胞増殖に関係すると言われているが、役割は謎が多い。

注6) リン酸化
タンパク質にリン酸基を付加させる化学反応。多くのタンパク質で生じる反応であり、タンパク質の機能が働く際、リン酸化によりスイッチのオン・オフが制御されていると言われている。リン酸化を起こすのもタンパク質(リン酸化タンパク質)であり、リン酸化タンパク質がリン酸化を開始するのも自身のリン酸化の場合が多く、カスケード的な反応のネットワークを形成して生物の機能を担っている。がん化において、タンパク質のリン酸化は重要なファクターとなっている。高分解能の2次元電気泳動によりリン酸化を分離できる。

注7) 分離用ゲル
水を80%以上含む寒天状の物質であり、多くの場合、アクリルアミドの重合体が用いられる。変形し易く、取り扱いには習熟がいる。1次元目電気泳動(等電点電気泳動)用のゲルはストライプ状で、酸性から塩基性へのpH勾配が形成されている。2次元目電気泳動用のゲルは分子の網の目状構造を利用してタンパク質分子の大きさでふるい分ける。


<お問い合わせ先>
<開発装置に関すること>
シャープ株式会社 研究開発本部 健康システム研究所 第二研究室
〒261-8520 千葉市美浜区中瀬1-9-2
Tel: 043-297-1221(大代表)

<販売装置に関すること>
シャープマニファクチャリングシステム株式会社 第4機器部
〒581-8581 八尾市跡部本町4丁目1番33号
Tel: 072-991-0681(代表)

<熊本大学に関すること>
荒木 寛幸(アラキ ヒロユキ) 松本 泰彦(マツモト ヤスヒコ)
国立大学法人 熊本大学 マーケティング推進部
〒860-8555 熊本市黒髪2-39-1
Tel: 096-342-3209 Fax: 096-342-3239
E-mail: liason@jimu.kumamoto-u.ac.jp

<JSTの事業に関すること>
安藤 利夫(アンドウ トシオ)
科学技術振興機構 産学基礎基盤推進部(先端計測分析技術・機器開発担当)
〒102-0075 東京都千代田区三番町5 三番町ビル
Tel: 03-3512-3529 Fax: 03-3222-2067
E-mail: sentan@jst.go.jp
ホームページ: http://www.jst.go.jp/sentan/

 


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