麻倉怜士氏 Interview

AQUOS誕生――リビングに衝撃

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すべては「宣言」から始まった

AQUOSのこの10年を振り返るとき、1998年に町田社長(当時)が発表したテレビの液晶化宣言こそがスタートであったという歴史的事実を忘れるわけにはいきません。「2005年までに国内で販売するすべてをテレビを液晶化する」とブチ上げたのです。
しかし当時、ブラウン管のワイドテレビは充分完成度が高く、その一方で液晶はといえば、サイズは20型以下で価格も高く、画質も最低でした。3型からスタートした液晶の歴史からすれば、とても頑張って大きくなったとはいえ、家庭用テレビの主役になるにはまったく役不足でした。技術面で当時では先の見えないところが大きく、おそらく社内でも懐疑的な意見もあったはずです。
私も液晶には技術的な問題がたくさん残っていると感じていました。一つは、コントラストが弱いこと。そのために、暗い場面では画面を見るときに黒が浮き、不安定でした。視野角も狭く、横から見えにくいなどの点もブラウン管テレビに負けていたところでした。それらが、どう解決できるかにAQUOS成功の鍵があると、当時私は見ていました。

ブランド戦略はトータル戦略で

テレビの画質にはさまざまな要素があるのですが、アナログ放送とデジタル放送でのその決定的な違いは「フォーカス」です。
別の言い方では「解像感」。アナログでは、もとより解像度が低いので、ぼんやりとした映像しか出せませんでしたが、デジタルは放送そのままで、ひじょうにしっかりとしたフォーカスが得られます。これは実は液晶にひじょうに大きなアドバンテージになりました。
当時の液晶テレビは、コントラスト、視野角、動画特性など大いに弱みがありましたが、しかし、フォーカス特性は素晴らしかった。それが新しいメディアの特徴にも完全に合致したことで、私は大いなる可能性を液晶に見たのでありました。
もうひとつ産業的な強みもありました。液晶テレビは分業の集積です。ガラス、フィルター、液晶、バックライト、回路などさまざまな要素に技術を分けられます。それらが個別に技術向上を追求することそれぞれ良くなり、アセンブルするテレビとしては、それらの改良が相乗的に効くということです。その効果により「フォーカス」だけでなく総合的な画質が新しい段階に突入する可能性を秘めていると感じました。シャープは社内にこれらの技術要素のかなりの部分を独自に持っているので、他社に先んずる展開は必ずやあるはずと思っていました。
液晶テレビを一人前にする上でのシャープの功績は技術だけでなく、そのスタイル、デザインにも及んでいます。初代からAQUOSのデザインを担当したのは、国際的に活躍する家具デザイナーの喜多俊之さん。社外の優れたリソースを取り入れたことで、AQUOSのデザインはそれまでのテレビにはなかったライフスタイル的なものになりました。液晶という先端技術のハイテクなイメージだけを前面に打ち出すだけでなく、家庭のなかに普通に入っていく新しい世紀のスタンダードとして、曲線をうまく使ったやわらかさのある人間的なテレビデザインになりました。AQUOSというネーミング、テレビCMでのイメージづくりなどと相まって、その後のAQUOSブランドを牽引したといえるでしょう。